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松戸愚連隊  作者: ponzi
17/30

第17話偉い女

2025年3月。春の兆しが、松戸の街の冷たい空気を少しずつ和らげていた。ライブハウス「ギフテッド」の地下室は、豪志とシャンボの変わらぬ熱気で満ちていた。この日、彼らは、これまでの曲とは少し毛色の違う、新しい曲を披露しようとしていた。

ステージに立った豪志は、少し照れくさそうにマイクを握り、観客に語りかけた。

「今日は、ちょっと変わった曲をやります。タイトルは、『偉い女』です」

観客から、ざわめきが起こる。豪志は、その反応に少し戸惑いながらも、続けた。

「これは……東大卒大富豪の村田美夏ちゃんとか、TBSテレビアナウンサーの篠原梨菜ちゃんとか、女優、モデルの小貫莉菜ちゃんとかをイメージして書いた曲なんです。皇室の佳子さま、愛子さまも。でも、よく考えたら、こんな女、存在しねぇわ、っていう(笑)」

観客から、どっと笑いが起こった。豪志は、その笑いに安堵したように、ギターを構えた。シャンボが、メロディアスで、どこか切ない歌声で、歌詞を紡いでいった。

(歌:アナクロニズム)

君を守れるのは僕だけ

僕を守れるのは君だけ

人生は美しい

人生は素晴らしい

生きてて良かったって今なら思える

これが最後の恋だって今なら思える

君が頼れるのは僕だけ

僕が頼れるのは君だけ

人生は続いてく

人生と実存主義

出会えたことが奇跡だって今なら思える

道ならぬ恋じゃないって今なら思える

シャンボの歌声は、豪志の理想とする「完璧な女性」への、純粋な憧れを表現していた。しかし、その歌には、どこか手の届かない存在への、切ない諦めも感じられた。

君は世間的には「偉い女」

本来なら高嶺の花だ

君は僕の前では「エロい女」

本来の姿を晒してくれる

君は不思議なくらい「エモい女」

僕に恋の魔法をかける

君はそれはときどきは「痛い女」

ピントのズレたお姫様

六本木に住んで東大卒

大富豪で絶世の美女

「釣り合わない」と言う

僕の現実じゃないって

曲調は、次第に激しさを増していく。それは、豪志が抱える、理想と現実のギャップに対する葛藤を表しているようだった。

「偉い女」と付き合うのは難しいって分かってる

身分違いの恋が不幸を生むかもしれないことも

ものすごく若くて芸能人

やんごとなき身分の美少女

「上手くいかない」と言う

僕の現実じゃないって

「偉い女」と付き合うのは実は簡単なんだ

そのコと1対1で誠実に向き合ってあげればいい

歌が終わると、客席から、拍手と笑いが沸き起こった。観客たちは、豪志の奇妙な歌詞に込められた、彼の純粋で、どこか滑稽な恋愛観に、親近感を覚えたのだろう。

ライブ終了後、豪志は、ステージ上でシャンボに語りかけた。

「どうだった?ユーモアだと捉えてくれればいいけど、ちょっと誤解を生むかもしれない曲だね」

豪志は、そう言って肩をすくめた。

「Exactly!でも、それが豪志さんらしいんじゃないですか。正直で、馬鹿正直で。俺は好きですよ、この曲」

シャンボは、豪志のその矛盾を、優しく受け止めていた。

しかし、彼らのライブの様子は、再び、ある人物の目に留まることになる。

政治結社『日本愛国連合』の幹部、テリー。彼は、豪志が「偉い女」と名指しした人物の中に、自分の知る人物がいることに気づいた。テリーは、スマートフォンを握りしめ、冷たい笑みを浮かべた。

「……村田美夏?まさか、豪志のやつ、まだあいつのことを…」

テリーの脳裏に、九年前の、ある出来事が蘇る。それは、豪志と村田美夏、そしてテリー自身の間に起こった、決して語られることのない、忌まわしい過去だった。

テリーは、豪志の音楽が、彼自身の過去を歌っていることを確信した。そして、その歌が、彼の心の中にある、決して触れられたくない部分を、暴き出そうとしていることに、激しい怒りを覚えた。

彼は、豪志たちの次のライブの日程を調べると、冷たい笑みを浮かべ、呟いた。

「…次のライブで、お前らの音楽活動も、お前らの命も、終わりだ」

テリーは、自分の持つコネクションを使い、彼らの次のライブを、完璧な形で妨害する計画を立て始めた。彼の計画は、豪志たちの想像をはるかに超えた、危険なものだった。

彼らの音楽が、光を放てば放つほど、松戸の街の闇は、さらに深いものになっていく。彼らの「愚連隊」としての正義が、今、最大の危機を迎えることになるだろう。



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