表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
松戸愚連隊  作者: ponzi
15/30

第15話脱構築

2025年2月。松戸の街は、冬の寒さに包まれていた。だが、ライブハウス「ギフテッド」の地下室は、豪志とシャンボの音楽への情熱で、いつも熱気を帯びていた。この日は、彼らにとって、新たな挑戦のライブだった。

豪志は、ステージの真ん中でマイクを握り、少し緊張した面持ちで観客に語りかけた。

「今日は、ちょっと哲学的な曲に挑戦しようと思います。……僕も、何を言ってるのか、よくわからなくなるんですけど」

観客から、くすくすと笑いが起こる。豪志は、そんな彼らの反応に少し安心したように、続けた。

「タイトルは、『脱構築』です」

彼がそう言うと、静かにギターのコードを鳴らし始めた。その音は、これまでのロックサウンドとは違い、どこか内省的で、実験的な響きを持っていた。シャンボの歌声も、いつもの力強さとは違い、語りかけるように、そして少し戸惑うように、歌詞を紡いでいった。

(歌:アナクロニズム)

現代思想とは、差異の哲学である

差異とは、多様性、違いを認める思想

同一性は絶対ではないというマインドを持つこと

存在論は究極ではないという哲学を持つこと

非本質的なものの重要性

本物と偽物の二項対立

直接的な現前性

間接的な再現前

観客たちは、その難解な歌詞に、耳を傾けながらも、どこか戸惑っているようだった。しかし、豪志のギターとシャンボの歌声が作り出す独特な世界観に、次第に引き込まれていく。

世界は差異でできている

同一性よりも差異の方が先

バーチャルな関係の絡まり合い

同一性だけで考えるのはリアルじゃない

楽観的で、人を行動へと後押ししてくれる思想

世界は多方向の関係性に開かれていて、変動している

ここから曲調は、次第に激しさを増していく。それは、豪志の頭の中で渦巻く、複雑な思想が音になったかのようだった。

監獄的な空間にノイズを集約することによって、

主流派世界をクリーン化していくことになった、それがまさに近代化

思弁的実在論

ノマドのデタッチメント

パロールのエクリチュール性

真理の複数性

脱構築によって問われるグレーゾーン

逃走線の先の外部

歌が終わると、豪志は少し疲れたように、マイクを握ったまま呟いた。

「……うーん。哲学者の千葉雅也さんを参考にしたんですけど、自分でも何を言ってるか、訳分かんねーんです」

観客から、大きな笑い声が起こった。彼らは、豪志のその正直な言葉に、親近感を覚えたのだろう。

「でも、少しずつ自分の中で咀嚼して、千葉雅也さんの哲学を理解していくしかないなって思ってます」

豪志は、そう言って微笑んだ。

ライブ終了後、豪志とシャンボは、いつものようにクラブ「ベーカー」へと向かった。エミとノリコは、すでに店で彼らを待っていた。

「今日のライブ、見たよ!ポンちゃん、あれ、ちょっと難しかったね」

ノリコが、正直な感想を口にした。エミも頷きながら、豪志の顔をじっと見つめた。

「でも、ポンちゃんらしい曲だったよ。言葉の意味は分からなくても、ポンちゃんの伝えたいこと、なんとなくわかる気がする」

エミのその言葉に、豪志は心が温かくなるのを感じた。

しかし、その夜の「ベーカー」は、どこか不穏な空気に包まれていた。豪志は、用心棒として店内の様子に目を光らせていたが、彼の視界に、ある男の姿が捉えられた。

政治結社『日本愛国連合』の幹部、テリー。彼は、カウンター席に座り、豪志に冷たい視線を向けている。彼の顔には、怒りだけでなく、豪志に対する深い憎悪が浮かんでいた。

テリーは、豪志のライブの動画を、スマートフォンで見せながら、冷たい声で言った。

「…脱構築、だと?ふざけるな。お前が一番、俺の人生を脱構築しただろうが」

テリーの言葉に、豪志は思わず息をのんだ。テリーは、豪志の過去の、ある出来事に深く関わっている人物なのだろうか。

「お前らのくだらない哲学と音楽は、俺が叩き潰してやる」

テリーはそう言って、豪志に背を向けて立ち去った。彼の言葉は、豪志の心に、深い不安を植え付けた。

彼らの音楽活動が、テリーとの因縁を、再び呼び覚まそうとしている。豪志とシャンボの「愚連隊」としての正義は、今、彼らの想像をはるかに超えた、巨大な闇と対峙することになるだろう。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ