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松戸愚連隊  作者: ponzi
12/30

第12話キャンセルカルチャー

「ウソ」のライブから数週間後、11月も終わりに差し掛かった頃。「ギフテッド」の地下室は、この日も多くの観客で埋め尽くされていた。豪志とシャンボは、観客の熱気に後押しされるように、立て続けに新曲を披露しようとしていた。

シャンボがマイクを握り、少し照れくさそうに笑った。

「また新曲です。『Cancel Culture』。まだ完成はしてないんですけど(笑)」

豪志のギターが、硬質なリフを刻み始めた。湯澤さんの重厚なベースラインと、ヒデオさんの鋭いドラムがそれに続く。彼らの演奏は、以前にも増して一体感を増していた。そして、シャンボの力強い歌声が、会場に響き渡った。

(歌:アナクロニズム)

cancel culture, cancel science,

(文化を否定、科学を否定、)

cancel history, cancel human!

(歴史を否定、人間を否定!)

I would accept whatever

(あなたが否定したがるすべてのものを)

you wanna cancel,

(わたしは肯定するつもりだ、)

Because denial bear nothing.

(否定は何も生まないから)

I would receive the truth

(あなたが否定したがるすべてのものを)

you wanna cancel.

(わたしは受け容れるつもりだ、)

Because denial cause conflict.

(否定は争いのもとだから)

シャンボの歌声は、社会に対する鋭い批判と、彼ら自身の信念が入り混じった、複雑な感情を表現していた。観客は、ただ聴き入るだけだった。この曲に込められたメッセージの深さを、誰もが感じ取っていた。

cancel culture, cancel reality,

(文化を否定、現実を否定、)

cancel love, cancel yourself

(愛を否定、あなた自身を否定)

I would love whoever you wanna cancel,

(あなたが否定したがるすべてのひとを)

Because it is right.

(わたしは愛するつもりだ、それが正義であるから)

I would raise each other if you cancel,

(あなたが否定したがっても、わたしはお互いを支え合うつもりだ、)

Because I like human.

(人間が好きだから)

If you canceled the unavailable reality,

(不都合な真実をいちいち否定していたら)

You would have been canceled by any person.

(あなた自身があらゆるひとから否定されてしまうだろう)

If you accepted the ones you hate,

(嫌いなひとを肯定できれば)

You would have been accepted by any person.

(あなた自身があらゆるひとから肯定されるだろう)

曲は、終盤に向けてさらに熱を帯びていく。豪志のギターソロが、情熱的に、そしてどこか孤独に響き渡る。それは、彼が精神病院で過ごした日々、社会から「キャンセル」された自身の経験を歌っているかのようだった。

accept culture, accept love

(文化を肯定、愛を肯定)

accept enemy, accept human

(敵を肯定、人間を肯定)

演奏が終わると、会場には割れんばかりの拍手が鳴り響いた。観客たちは、彼らの音楽が持つ、単なるエンターテインメントを超えた力に、心を揺さぶられたのだ。彼らの音楽は、社会の不条理を批判するだけでなく、その先にある希望を提示していた。

ライブ終了後、豪志は、疲労と達成感に満ちた顔で、シャンボと話していた。

「……よかったな、シャンボさん。みんな、俺たちの音楽、ちゃんと聴いてくれてる」

「はい。なんか、ライブするたびに、俺たちの『愚連隊』の仲間が増えていくみたいで、嬉しいです」

二人は、笑顔で語り合った。彼らは、音楽を通して、自分たちを「キャンセル」しようとする社会に、静かに、そして力強く抵抗しているのだ。

しかし、彼らの「ギフテッド」でのライブの様子は、再び、ある男の目に留まることになる。ライブの様子をスマートフォンの画面越しに見ていたその男は、口元に冷たい笑みを浮かべていた。

「……否定は何も生まない、だと?お前が一番、俺の人生を否定しただろうが」

彼の声は、怒りに満ちていた。男の背後には、松戸の街の夜景が広がっている。そして、その男こそ、政治結社『日本愛国連合』の幹部、テリーだった。

彼は、豪志とシャンボがクラブ「ベーカー」で用心棒をしていることを知っていた。そして、彼らの音楽が、自分たちの組織の思想とは真逆の、「肯定」と「受容」を説くものであることを、許せなかった。

テリーは、豪志たちの次のライブの日程を調べると、冷たい笑みを浮かべ、呟いた。

「…次のライブで、お前らの音楽活動は、終わりだ」

彼らの「愚連隊」としての正義、そして「アナクロニズム」としての音楽が、今、松戸の街の闇に潜む、本当の脅威と対峙しようとしていた。

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