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松戸愚連隊  作者: ponzi
11/30

第11話ウソ

2024年11月。松戸のライブハウス「ギフテッド」は、いつにも増して熱気に包まれていた。ステージには、豪志、シャンボ、そしてスクリーンに映し出された湯澤さんとヒデオさんの姿があった。正式にバンド「アナクロニズム」が発足して以来、彼らのライブは、松戸の街の音楽ファンにとって欠かせないものとなっていた。

この日は、彼らの新曲披露の場でもあった。ライブが始まると、シャンボがマイクを握り、客席に語りかけた。

「今日は、新しい曲を歌います。タイトルは『ウソ』。……ちょっと重いテーマかもしれませんけど、俺たちにとって、すごく大切な歌です」

彼の言葉は、観客の心に静かに染み渡っていく。豪志のギターが静かに、しかし力強くコードを刻み始めた。湯澤さんのベースラインが加わり、ヒデオさんのドラムが重厚なリズムを奏でる。そして、シャンボの歌声が、会場全体に響き渡った。

(歌:アナクロニズム)

子供って追い詰められるとウソをつくじゃないですか

自分を守るためにギリギリのところでウソをつくじゃないですか

可愛いウソかもしれないじゃないですか

ウソをつくことで自分たちの何かを守っているのかもしれない

私は子供達のつくウソが大好きです

彼らは私の昔の姿なのですから

今を生きる為のウソと誰かを騙す為のウソ

似てるようでいて全然違うものじゃないですか

シャンボの歌声は、まるで聴衆一人ひとりの心に直接語りかけるかのようだった。彼の歌に乗せられた豪志の歌詞は、深く、そして鋭く、現代社会の核心を突いていた。

人を信じる事って難しい事じゃないですか

誰も信用できない人が誰かから信用されるでしょうか

生きる為のウソかもしれないじゃないですか

ウソをつく事が子供達の哲学そのものかもしれない

私は子供達のつくウソが大好きです

彼らのウソは未来への希望ですから

自分を守る為のウソと誰かを傷つける為のウソ

似てるようでいて全然違うものじゃないですか

今を生き延びる為の精一杯のウソ

誰がそれを責められるんですか、ねえ?

ここから曲調は一転、重厚なロックサウンドへと変わる。豪志のギターが激しく歪み、ヒデオさんのドラムが力強いビートを刻む。

みんな真面目ないいコを演じるじゃないですか

権力に忖度したり従順なフリをするじゃないですか

ウソをついてでも人を出し抜こうとするじゃないですか

「権力に逆らうからだ」などと悪びれるじゃないですか

私はそれが絶対許せないんですよ

お金や売名の為にウソをつく事が

今を生きる為のウソと誰かを騙す為のウソ

似てるようでいて全然違うものじゃないですか

怒りにも似た感情が、シャンボの歌声に乗って会場を支配する。彼は、豪志の歌詞に込められた強いメッセージを、全身で表現していた。

政治や経済にウソを持ち込むじゃないですか

科学や宗教まで歪めてしまうウソをつくじゃないですか

ウソをついてでも人を出し抜こうとするじゃないですか

「これが資本主義だ」などと悪びれるじゃないですか

私はそれが絶対許せないんですよ

第一自分自身にウソをついてます

自分を守る為のウソと誰かを傷つける為のウソ

似てるようでいて全然違うものじゃないですか

今を生き延びる為の精一杯のウソ

誰がそれを責められるんですか、ねえ?

そして、再びメロディーが静かになる。冒頭のパートが繰り返され、シャンボの歌声が優しく、会場に語りかけるように響いた。

私は子供達のつくウソが大好きです

彼らは私の昔の姿なのですから

今を生きる為のウソと誰かを騙す為のウソ

似てるようでいて全然違うものじゃないですか

演奏が終わると、会場は一瞬、静寂に包まれた。そして、その静寂を破るように、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。観客たちは、彼らの音楽に込められた、深く、そして普遍的なメッセージに心を揺さぶられたのだ。

ライブ終了後、豪志は疲労と達成感に満ちた顔で、シャンボと湯澤さんとヒデオさんと画面越しに乾杯した。

「すごい曲だな、豪志」

ヒデオさんがそう言うと、湯澤さんも頷いた。

「俺、あの曲を聴いて、なんか、泣きそうになったよ。豪志の、これまで言えなかった想いが全部詰まってるみたいでさ」

豪志は何も答えず、ただ静かに微笑んだ。彼の心の中には、FM松戸の時とは違う、確かな手ごたえがあった。彼らの音楽は、着実に人々の心を掴み始めていた。

しかし、その夜のライブの様子は、思わぬ人物の目に留まることになる。ある一人の男が、そのライブの様子をスマートフォンの画面越しに見ていた。彼の顔には、怒りにも似た、複雑な感情が浮かんでいる。

「……ウソ、だと?ふざけるな」

彼の呟きは、ライブハウスの熱気とは全く違う、冷たい怒りに満ちていた。豪志とシャンボの「愚連隊」としての正義感、そして音楽が持つ力が、かつての因縁を再び引き寄せることになる。そして、彼らの運命は、またしても嵐に巻き込まれることになるだろう。

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