魔法会5
「あれ?用事は終わったの?」
「ああ」
そんな私とディオンの会話に、メイが聞く。
「えっ、シエルどこ行くの?」
「あ、えっと……」
突然の質問に返事を考えられず、慌てふためいていると、ディオンが冷静に親指を返して言った。
「魔法会の裏の手伝いでちょっと借りていくけど、いいか?」
「は、はい」
メイの声は酷く裏返っている。
「シエル、手伝いするならラブ見とくよ?」
ラブを抱きかかえて立ち上がった私にメイが言う。
「え?いいの?」
「いいよ」
「でも……」
本当は手伝いなんかじゃないのに……
迷っている私の気持ちを察したのか、メイはにっこり笑いながら言った。
「ラブ大人しいし可愛いし全然平気だよ。気にせず行ってきて」
そう言いながら、私の腕からラブをそっと取ると、抱きしめるように大事そうに撫でた。
「ありがとう」
…………
……
ディオンとは、あのアランとの初顔合わせをした日ぶりだ。
最近は心を開きかけていたのに、あの日のディオンを思い出すと、どうしても警戒心が湧いてしまう。
でも、なんであんな事したんだろう。
結局アランも、理由を知ってそうなのに誤魔化すだけで教えてくれないし……
本人に聞けば教えてくれるのかな?
なんだか機嫌が悪そうだけど……
そんな事を考えている私は、いつの間にか酷い息切れを起こしていた。
なぜかというと……
「ちょっと!は、早いんだけど!」
私が叫ぶと、随分先を歩いていたディオンがポケットに手を突っ込んだまま、「あ?」と振り返る。
「お前が遅いんだろ?さっさと来いよ」
顎をグイっと上げるディオンに、思わず言い返してしまう。
「ディオンが早いんだよ!」
グランドから離れる時は、二人で抜け出す所を人に見られるとよくないからだと思っていた。
けど、もうずっと誰もいないのに、このスピードのままなんておかしい!
「いいや、お前が遅い」
「ディオンだよ!」
口をパンパンに膨らませると、ディオンは大きなため息をつき、舌打ちしながら戻って来た。
目の前で立ち止まったディオンが少し屈んで、何かを嗅ぎ取るようにスンと鼻を鳴らす。
「え!?何!?」
慌てて身を引く私に、ディオンが眉間にしわを寄せて呟く。
「さっきから思ってたけど……なんかお前、くせぇな」
その言葉にガーンと大きなショックを受けた私は、慌てて自分のローブの裾を掴んで匂いを嗅いだ。
「え!?くさい!?嘘っ!?」
いくら嗅いでも分からない。
それでも恥ずかしくなって、慌ててローブを脱いでシャツ姿になる。
「なんで!?全部洗濯したところなのに……って、まさか私自身が臭い!?」
ショックで頬を挟む私を見て、ディオンはローブをバンバン叩きながら言う。
「ちげぇよ。あのクソ野郎の匂いだ」
「痛っ!痛いよ!っていうか、クソ野郎って誰よ」
その時、ふわりと柔らかな花の香りが漂ってきた。
周囲を見ると、自分の周りを囲むように金色の光の粒が舞っている。
「あの転校生に決まってんだろ。お前にあいつの匂い付いてて臭せぇんだよ。もう二度と近付くな!」
「アランの事?ってことは香水かな?確かにアランの匂いってちょっと強いよね」
「知らねぇよ」
ディオンの口調が荒くなる。
さっき勝った時に抱き着いて来たんだよね。
その時に付いてしまったのかな……
なんて考えている間に、ローブから漂う香りがいつの間にか花の匂いに変わっていて不思議に思った。
「ディオンはアランの事が嫌いなの?実は私が知らないだけで、アランが何かした?」
「あぁ?」
「前の授業の時、アランにあんな酷い事したのはどうして?」
私の問いかけに、無視をして歩き始めるディオン。
ディオンも教えてくれないのかな。
今後もアランとディオンは毎週顔を合わす。
だから、何が原因だったのか知っておきたいのに……
あんな事、二度と起こって欲しくない。
「アランのキツい匂いが駄目なの?」
もしその理由で殺しかけたのなら、生粋のサイコパスと呼べるだろうけど。
「確か……『色気づいて』って言ってたよね。アランが教室で……」
「アランアラン煩せぇな!」
いきなり怒鳴られて驚いた。
「お前、やたらあいつを庇うな」
「そ……そう……かな?」
全然そんなつもりは無いんだけど。
「まさか、あんなのがいいのか?」
足を止めたディオンが、鋭い目で私を見つめる。
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