魔法会3
腹に強い衝撃が走った。
そのまま飛ばされるように地面に尻もちをつくと、ヒュンっ!と風を切る音が耳元を掠った。
次の瞬間、肩にトンと何かが当たる感覚がして視線を向けると、顔の真横にあった炎がスッと消えていった。
奴は俺に影を落として立っている。
見上げると、剣をこちらに向けたまま利き手じゃない方で兜のカバーをスライドさせ、あの女みたいな顔を再びあらわにした。
「勝負、着いたね」
逆光でも分かるくらいに微笑んでいる奴の顔が映る。
「Bクラスの勝ち――!」
その審査員の声を聞いて、俺は初めて、今自分が負けたんやと気付いた。
呆然として肩を落としていると、耳の奥がキーンとなりそうな程の甲高い声が飛び込んでくる。
「サオトメ様--!!」
顔を上げると、いつの間にか近付いて来ていたサオトメ様という奴は、甲高い声に紛れるようにして、意味の分からん言葉を落としてきた。
「悪いね。僕、女性に誠実じゃない人は嫌いなんだ」
……は?
何やそれ。どういう意味やねん。
意味が分からず眉を寄せていると、奴は、突然「あっ」と小さな声を漏らしてどこかに手を振り始めた。
その表情は、さっきまでとは全く違い、まるで無垢な天使のような笑顔を浮かべている。
気になってその視線を辿ると――
「……シエルちゃん?」
小さく手を振り返すシエルちゃんの姿が映った。
って、いたんかい!
女が多すぎて分からんかったわ!
埋もれてたからって惚れた女を見つけられへんかったとか、俺、好き失格ちゃうか!?
ってかこいつ、よく見たらまんべんなく手を振ってるように見せかけて、さっきからほとんどシエルちゃんしか見てへんやん!
って事は、まさかこいつ……
俺のライバルか!?
ん?待てや?
そうなってくると……まさかあの静電気みたいな罠をしかけた奴って……
いやいや、まさか……さすがにそれは考えすぎやな。
俺とこいつは初対面やねんから。
そう思っていると、奴はまだ尻もちをついたままの俺に手を差し伸べて来た。
訳が分からず戸惑いながら手を取る。
「あ、ありがとう?」
立ち上がると、奴は笑顔のまま両手で握手をして来た。
「良い戦いだったね。魔力量は君の方が上だったと思うけど、コントロールがまだまだだったかな?でもまだこの学園に入ったばかりなのに本当に凄かったよ。これから頑張ってね」
そんな様子がほぼ同時に、頭上のモニターでも流れる。
ん?なんなんや。
こいつ、さっき俺の事嫌いって言ったのに……どうしたんや。
意外とええ奴なんか?ようわからん奴やな。
「お、おう。ありがとう。頑張るわ」
遠くから「サオトメ様、なんてお優しいのかしら」という声が耳に入って来たと思うとサオトメ様とかいう奴はスッと顔を近付けて来た。
そして再び俺にしか聞こえない声で囁いた。
「お前、僕のシエルちゃんに馴れ馴れしく近付くんじゃねぇよ。次はあんなもんじゃ済まさないからな」
その瞬間、体がピシっと凍り付く。
「……っ!?」
や……やっぱ俺のさっきの読み、当たってたんちゃうか!?
まさかこいつ、二重人格ってやつか?ヤバッ!
あの冷徹な特別講師といい、二重人格のこいつといい、俺のライバルヤバい奴ばっかやん!
なんて最悪なんや――!ひぃー!




