転校生14
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……
「シエルちゃ~ん。一緒に教室帰ろや」
廊下で手を挙げ近付いてくるのは、授業開始後にディオンに席を離されたアラン。その手首と額はまだ赤い。
「アランまだ赤いよ。大丈夫?」
「大丈夫大丈夫」
笑って誤魔化すけど、痛々しいほどに真っ赤な手首と額に、自然と眉が寄る。
「これ、ディオンがやったんだよね?」
「多分な」
「酷い……」
授業中でも感じていた怒りが、再びふつふつと湧いてくる。
結局、ディオンはなんであんな事をしたのかも分からず終いだ。
講師会議でイラつく事でもあったんだろうか?
でも、八つ当たりをするようなタイプじゃないと思うんだけど……
「とりあえず保健室に行こう!場所分からないと思うから案内するよ」
「ホンマにそこまでちゃうからええで。俺医者の卵やったから、これがどの程度かくらい分かるし。骨にヒビも入ってへん」
「でも……」
「何なに~?そんな心配してくれるん?嬉しいやん」
満面の笑みになったアランは、顔を近付けて来て
「じゃあ、シエルちゃんの治癒魔法で癒してや」
と耳元で囁いてくる。
「ま、またそうやって!アランいつも近すぎるのよ!」
囁かれた方の耳を手で塞いで、アランの胸元を押しやる。
「え?そう?」
「そうだよ!これからはもっと少し離れて」
と言いながら、アラン側に向かって必死で空気の線を描く。
「え~」
「あと私、治癒魔法は全然駄目だから、もし保健室が苦手なんだったら委員長のルイーゼに聞こうか?ルイーゼはクラスで1番治療魔法が得意なんだよ」
「それやったらええわ」
「え?」
「シエルちゃんちゃうんやったら、いらん!」
「何それ」
「ってかさぁ、あのディオンとか言う講師はシエルちゃんのなんなん?」
「何って……講師と生徒?」
……だよね。それ以外ないよね。
「ふーん、そうなん?なんの関係もないんか……」
「ある訳ないじゃん。あんな変な奴となんて!」
「せやなぁ、あれは確実に変やわ」
アランのその言葉にパッと目を輝かせる私は、思わずアランの手を握った。
「アランは分かってくれるの!?」
「えっ!?」
「みんなカミヅキ様カミヅキ様って拝むだけで誰も分かってくれなかったのに!!」
やっと理解者が現れたわ!
「アラン!あの講師は鬼畜サイコパスなのよ!」
「あー、確かにそっち系っぽいな」
肯定的な言葉に、更にテンションが上がってしまう。
「ってか、始めっからそういう奴だって知ってたら、もうちょい態度考えたんやけどなぁ。下手したらホンマに殺されてたかもしれんし。シエルちゃん止めてくれてありがとうな」
握った手を離すと残念そうな顔に変わるアラン。
「そ、そんな。当然の事をしただけだよ」
未だに、どうしてあのディオンを止めれたのか分からないままだけど。
「シエルちゃんは命の恩人やわ」
「大袈裟よ。でも……ほ~んと訳わかんないよね!なんであんな事をするかな……アランは何もしてないのに」
「まぁ、なんとなくは分かるんやけど」
「え!?分かるの!?凄い!何が原因だったの!?」
「多分やねんけど、あの講師は…………あっ」
ドヤ顔で話し始めた会話がいきなり止まってしまって、ふと横を歩くアランを見上げた。
すると、しまった、と書いているようなアランの顔が映った。
「……どうしたの?」
「あー、なんでもないわ。俺の気のせいや、勘違い勘違い」
誤魔化すように笑うアランに、私の頭の上にはハテナマークが浮かぶ。
「何よ、違ってもいいから教えてよ。気になるじゃない」
「……まぁ、あれや。シエルちゃんはそれだけ可愛いってことや」
笑い飛ばすように言うと背中をポンポンと叩いてくる。
「絶対いま誤魔化したでしょ?」
「いや、ほんまの話や。シエルちゃんは可愛い!もうそれは誰もが認めてるくらいに!」
「遊び人の言葉は信じません」
「シエルちゃん酷い」
ピエンとした目になるアラン。
「あと、また近いんで離れてください」
「え~」
…………
……




