転校生13
小さな玉のようだった靄は、瞬く間に膨れ上がり、アランを包み込むほどの大きさになった。
肌が毛羽立つような魔力がビリビリと伝わってくる。
これが魔力を感じるという事なんだろうか。
「ディオン!確かにアランの言葉遣いは良くなかったかもしれないし、自習もせずに色気……づいてたのかもしれないけど、だからってこんなのやりすぎだよ!」
必死に訴えるけど、ディオンは微動だにしない。
これは、ディオンなりのただの脅しなのかもしれない。
でも、もし脅しじゃなかったら……アランが取り返しのつかないことになってしまう。
それだけじゃない。ディオン自身も、塔に入れられて酷い拷問を受けることになるかもしれない。
そんなの、どっちも嫌っ!
どうしてか分からない。
けど――ディオンに人を傷つけてほしくない。
「ディオン!止めて!人殺しなんかにならないで!」
その時、何を言っても無反応だったディオンの肩が、一瞬ピクリと動いた。
その事に驚きながらも、私はさらに続けた。
「こんなこと、ディオンが望むことじゃないよ。そうでしょ?」
「俺が望むことじゃない、だと?」
低い声に圧倒されそうになりながらも、私は言葉を重ねる。
「知ってるんだから。ディオンは口が悪いし無愛想だけど、でも……本当はいい奴だって」
「勘違いも甚だしいな」
「うっ……。でも、こんな事して塔に入ったら、会えなくなっちゃうじゃん!あの玉子サンドだって……
それに、こんなことをするディオンなんて見たくない!!」
そう叫んだ瞬間、黒い靄がふっと消え去り、嘘のように空気が澄み渡った。
「あれっ……?」
「馬鹿か。殺すわけないだろ」
髪を乱暴に掻きながら吐き捨てるように言うディオンを見て、助かったんだと思った。
黒い靄が消えて見えたのは、ポカンと口を開けたまま尻もちをついているアラン。
「お……俺、助かったんか?」
その安堵もつかの間、アランは額を押さえて「痛っ!」と叫んだ。
アランの指の隙間から見える額は赤くなっていた。
ディオンはアランを睨んだ後、何も言わずにそのまま教卓に向かって階段を降りていく。
その時、やっと周りのクラスメイト達がディオンに気付いたように次々と振り返って行った。
最近よく一緒に居たから、ディオンの事を理解してきたと思っていた。
でも、そうじゃなかったようだ。




