転校生10
恐る恐る聞くと無言のままジッと見つめられる。
切れ長の綺麗な目が真っすぐ向いていて、思わず目を逸らしたくなるところを我慢する。
だって、いま目を逸らしたら負けた気がするから。
まるで我慢大会のような気持ちで見返していると、ディオンは長いまつ毛をバサっと動かして口を開いた。
「…………分かんねぇ。なんでだろうな」
待たされた挙句に返って来たその言葉に、肩がズリ落ちた。
「何それ」
もういいや。
あまり深堀すると、やっぱり止~めた、とか言い出しかねないし。
こういう時は話を逸らすのが1番。
「そうだ。この後の授業で、ディオンは初対面だね」
「ん?」
「先週転校してきたアランと」
「アラン?」
「うん。魔力の覚醒をした男子生徒なんだけど、とてもいい人なのよ。見た目は凄っく派手なんだけどね」
ディオンの眉は、分かりやすいくらいにピクっと動いた。
「ふぅん……」
その時、園内に「魔法会についての講師会議を行いますので、講師は至急会議室にお集まりください」という放送が響いた。
「ダッル……」
ディオンはその放送に口を歪めた。
魔法実験室――
階段状になった教室には、たくさんの席が並び、座る場所は自由だ。
教室に入るなり、私はお気に入りの一番後ろの端の席を確保した。
すると、当たり前のように隣に座って来たのはアランだった。
そしてまた放送が流れる。
「魔法会についての講師会議が長引いてます。生徒の皆さまは各自自習をしておいてください」
「嘘やん。せっかく週に一度の特別講師様の授業やのに」
アランはため息混じりに文句を言う。
そんなに楽しみにしてたんだ。
腕や耳に付いた数々のアクセサリーを見てから、つい口を開く。
「アランって意外と勤勉家だよね」
アランはこの学園に来て半月ほどしか経っていない。
それなのに、もう教科書の内容をほとんど理解しているらしい。
以前、試しに問題を出してみたら全問正解だった。
ここに来る前はT大の医学部に一発合格し、在学していた、という噂は嘘じゃないのかもしれない。
しかも、OSAKAで大きな病院を開いている医者の家系なんだとか。
「今更?俺、なんでも知りたい派やねん」
アランはそう言うと、手を伸ばして私の髪をすくい上げる。
「シエルちゃんのことも」
耳元で甘い声が囁く。
不覚にも思わずドキっとして、慌てて耳を両手で隠す。
「ちょっと……!やめてよ!」
「ククッ、可愛いな~。そうやってすぐ赤くなるところとか」
「もう!からかわないで!」
「え~。だって、シエルちゃん本当に可愛いんやもん」
頬杖をつきながら、アランは愛おしそうな目で見てくる。
この人、毎日毎日、どんだけ私のこと可愛いって言えば気が済むの!?
こういうところが本当に苦手だ。
「もっと真っ赤にさせたくなるやん」




