転校生9
「わ、私、本が好きなの!小さい頃からあの大図書館に通っているから、あの場所には読みたい本がもう殆どないのよ」
「ふぅん。本なんて何が面白いんだ」
どうでもいいような顔をしながら玉子サンドを口にしたディオンを見て、とりあえず怪しまれてないようだ、と胸をなでおろす。
「面白いよ。ディオンも読んでみたらいいのに」
「読む事くらいあるに決まってんだろ」
とりあえず本の話から話を逸らしておこう。いつかボロが出そうだし。
「そうだよね。そ、そういえばディオンってネズミーランドとか行った事あるの?」
っていうか、ネズミーランドってこっちの世界にもあるって初めて知った。
もちろん動くのは電力じゃなくて、やっぱり魔力なんだよね?
「あるわけねぇだろ」
食べ終わったディオンは親指をペロりと舐める。
「じゃあHARAJUKUは?」
「あー、通りがかりに上から見た事はあるけど……。人塵って文字通りに酷い密集度だった。あんな所、一生行く事はねぇだろうな」
口を歪めて言うと、片方だけ立膝をして膝上にダルそうに腕を置いた。
「ディオン、『人塵』じゃなくて『人混み』だから。塵だとチリになっちゃうじゃん」
私の言葉に一瞬目を丸くしたディオンは、自分の間違いに気付いたのかすぐにイラっとした顔に変わる。
「同じようなものだろ。あんなの塵と同じだ」
ディオンって、その完璧な見た目にクールで、何を思っているのか分からなくて隙もない。
だから、時々、血が通っていないんじゃないかって思う事がある。
だけど、今こうしてディオンと話していると、私と同じ人間なんだなって実感する。
「全然違うでしょ。ディオンがそれだけ高い所から見ていたせいじゃん」
と笑うと、怒るわけでもなくジッと見詰めて来る。
「何?」
「お前、随分俺に慣れて来たな」
「えっ。そ、そう?」
確かに、最近はこうやって話す事も増えたからか親近感が湧いては来たけど……
「最初はプルプルと震えるウサギみたいだったのに」
鼻で笑われてイラっとする。
「あんたが怖かったからでしょ」
「今は怖くねぇの?」
顎を上げて言われた言葉に、少し考えてみる。
「今は……確かに怖くはないかも?」
苦手だし、多少の警戒はまだしてるけど。
もしかして、この美味し過ぎる玉子サンドで、気付かない間に飼いならされてしまった!?
「ディオンはウサギの時の方が良かったっていうの?」
私の質問に、ディオン思い出したようにプッと噴き出す。
「あ!今、絶対私の事で笑ったよね!?」
勢いよく立ち上がってディオンを指をさすと、その指はクルリと自分の顔に向いて、そのまま頬をブスリと突いた。
「イタタっ!爪!爪が刺さってるから!」
「俺に指差すな」
やっと指が離れて、ポケットから手鏡を出すと頬にクッキリと爪痕が……
「もう!また人の体を勝手に動かして!こういうの止めてって言ってるじゃん!人でなし講師!」
「あぁ?お前、俺にそういう言い方していいのか?」
腕を組み、偉そうに見下ろしてくるディオンの態度に、小さなイラつきが込み上げる。
「そんな態度なら、魔書資料室に入れてやんねぇ」
主導権を握っているかのようなその言い方にも、ムカついて仕方ない!
「約束守ってくれないんだったら、ディオンが私にした事を全部学園にバラすからね!」
どうよ!ついに言ってやったわ!
あんたは気付いてないかもしれないけど、私はあんたの弱みを握ってるのよ!?
勝ち誇った気持ちで腰に手を当てると、思いのほかククっと笑われる。
「な……何よ!?」
「馬鹿だろ、お前」
「へ?なにが」
「まさか、そんなので俺の弱みを握ったつもりになってたのか?」
「えっ、だって……」
だから資料室に入れてくれるんでしょ?
「んなの気にするわけないだろ」
「き、気にするでしょ!私がバラしたら講師生命が無くなっちゃうんだから!」
「はー。やっぱお面白れぇなぁ」
そう言うと、今度は馬鹿にするようにハハっと笑った。
「そんなの、俺にとって脅威でもなんでねぇに決まってるだろ。どうせ俺が手を下したらいくらでも簡単に操作できるんだから」
そう言ったディオンの目は、さっきとは打って変わって酷く冷めきっていて、全身が一瞬で冷えていく。
そして、前に感じた恐怖が蘇って来る感じがした。
「じゃあ……なんで私を魔書資料室に入れてくれるの?」
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