転校生8
「どうしたの!?」
驚いて声を上げると、アランは顔を歪めながら右手を左手で握っていた。
「な、何!?」
「なんや今の……静電気か?」
「静電気……?冬だし乾燥してるのかな?それにしても凄い音がしたね」
「めっちゃ痛かったわ」
そう言って私の方に目を向けたアランは、目をパチクリさせた。
「ん?なんや分からんけど、さっきのやつ消えてるやん」
「え……?」
「それに触ってへん方まで……」
「そうなの?じゃあ頭も?」
そう言ってつむじを向ける。
「……いや。頭はまだあるな……」
「あるって、いるってこと?結局虫なの?」
「いや、そういうのんちゃう。なんかよう分からんけど多分……見える静電気?みたいな……?」
その発言にハテナマークを浮かべた時、再びバチッと音が鳴り、同時に「くっ……!」という声が耳に飛び込んできた。
顔を上げると、また手を押さえているアランがいた。
「アラン大丈……」
アランは、私の言葉を遮って叫ぶ。
「ああーー!そういう事かい!だいたい分かったし、めちゃくちゃムカついて来たわ!」
「えっ!?静電気に!?それとも私!?」
確かに取ってとお願いしたのは私だけど。
「アホ!そんな訳ないやろ。こんな小細工したおこちゃまにや!誰や!こんな事をしたやつ!」
その言葉の意味が全く分からない私はポカンとなった。
「……へ?」
小細工?
おこちゃま?って……何!?
一週間後の昼休みの屋上――
「ディオン。ついに魔法会まであと3日だね!」
恒例になりつつあるディオンお手製の玉子サンドを手にする私は、テーブルを挟んだ向かいのディオンにニコニコとした顔を向けた。
どうしてこんなに機嫌がいいのかというと――
あと3日後の魔法会で、念願の『魔書資料室』に入れるからだ!!!!
ちなみに魔法会とは、進級試験前にそのクラスで1年間どれだけ頑張ったのかを競技形式で見てもらう、発表会的なものだ。
ディオンに魔書資料室に入りたいとお願いしたあの時、『警備が最も薄くなる魔法会の時ならいい』と了承してくれた。
魔法会は学園の一大イベントだから、その時の警備は、ほとんどグランドに集中するんだそう。
出来るだけ魔書資料室の滞在時間を作る為に、一度もやったことのないアンカーにまで立候補した。そして、他の出番は最初にまとめるよう調整済み。
これで時間確保はバッチリだ!
「あ~、早く魔法会当日にならないかな~」
「会うたびにその話ばっかだな」
「だって、本当に待ちきれないんだもん」
十何年も進展がなかった復讐の第一歩を、やっと踏み出せるかもしれない! 期待しない方がおかしいでしょ!
「何がそんなに待ちきれないんだ。あんなクソ地味な場所、何も楽しい事なんてねぇだろ。お前の年なら、あんな所じゃなくてネズミーランドやHARAJUKUとかに行きたがるもんじゃないのか」
玉子サンドを頬張りながら聞かれた言葉にドキッとする。
もしここで怪しまれたら、復讐願望や脱園願望があるというのを吐かされる可能性がある。
脱園願望があるなんてバレたら、一生協力なんてしてくれなくなるだろう。
だって、こんなんでも、ディオンは一応講師なんだから。




