転校生6
「どうして?」
「だって私、Fクラスになるまでに12年半もかかってるんだよ!なのに一瞬でFクラスなんて……」
眉を寄せる私に、ルイーゼは冷静な表情で説明を始める。
「下級クラス、つまりEクラスまでの授業は、国語や数学、道徳、それに国の歴史など、人間として生きるための最低限の教養をメインにしているわ。これらの教養は、学園外にある学校でも習うものと同じなの。入園テストではその教養のレベルを測って、優秀な成績を収めた人はFクラスからスタートする。それだけのことよ。だからズルなんかじゃないわ。
学園外で勉強していたのか、学園内で勉強していたのか、その違いよ」
ルイーゼの説明を聞くと確かにズルくない気がしてくるのに、頭の中でやっぱり納得がいかない。
この世界独特の歴史や法律とかは1から学んだけど、教養や勉強の基礎に関してなら前世の記憶がある分、最初から有利だった。
なのに、私はFクラスになるまでに12年半もかかった。
本当に教養メインなんだったら、Eクラスまでは魔力のテストは無くしてほしかった!
それに、どうせ魔力の覚醒をするのなら、ジョウガサキ・アランみたいに、魔力感知が全くない状態で10歳以降に覚醒したかった。
そしたら、両親とも沢山一緒に居れたのに……
考えてもどうにもならないことにため息をついて、私はパスタを一口頬張った。
その時、向かいのメイの顔が目に入り、思わず手が止まる。
「……何?」
メイの顔が真っ赤に染まり、目をパチクリさせながら私の頭上をじっと見ている。
不思議に思って見上げようとしたその時――
両肩をガシッと掴まれたような感覚が走った。
驚いて目を見開くと、頭上から聞き覚えのある、独特なイントネーションのいい声が降ってきた。
「なになに~?もしかして、俺の話してたん?」
勢いよく頭を上げると、目と鼻の先に綺麗な猫目が映り込んで思わず咳き込んでしまう。
「大丈夫?」
「ジョ……ジョウガサキさんっ!」
「ちゃうやろ?アランでええって言ったやん」
「ですけど……」
「敬語もいらんて。1回言うてみ。『アラン』て。言ったら慣れるで」
周りを見回すと、食堂中の注目の的になっていて変な汗が噴き出した。
この人、今の状況分かって言ってるの?
「ほら」
「い、今はちょっと……」
「なんや。そんなんやったらいつまで経っても言われへんやん。1回でいいから言うてみ?」
ニコっと目を細めてお願いされて、つい言ってしまう自分は、押しに弱いんだろうか。
「ア……アラン……?」
そう言うと、肩に置かれていた手が頭上に移動し、軽くよしよしと撫でられた。
「よく出来ました」
まるで子供をあやすような口調で言われ、恥ずかしさとむず痒さが同時に込み上げる。
その時、遠くからキャーという悲鳴のような声が上がった。
「後は敬語だけやな。次の休み時間、一緒に特訓しような」
「えっ」
「じゃ、また教室で」
スッと手を離して背を向けるアランを、女子たちがぞろぞろと追いかけていく。
そのうちの何人かが振り返り、私を酷い剣幕で睨んできたからギョッとしてしまう。
「アカンやん。俺の大事なクラスメイトを睨まんといてや。そんなんされたら俺悲しいわ」
アランが穏やかに言うと、女子たちは慌てた様子で頭を下げ、小さくなっていく。
そして、優しく微笑みながら付け加える。
「それに、そんな顔したら勿体ないやろ。せっかく君ら可愛いんやから。な?」
その一言で女子たちの頬が一気に赤く染まるのを見て、私はポカーンとしてしまった。
やっとアランたちの集団が学食から消え、ホッと一息ついたその時、メイがぽつりと呟く。
「新たなアイドル誕生ね……」
その言葉に妙に納得していると、隣の椅子が引かれる音にハッとした。
振り返ると――
「ローレン」
「ここ、いいかな?」
聞いてきた彼の表情は、いつもの穏やかさとは違い、不機嫌そうに見えた。
「だ、大丈夫です」
あれ?どうしたのかな?
こんなローレンの顔、初めて……




