どうして私たちの子供ばかり5
お父さんはそう叫んで、即座に手を離し、すぐにキッチンの蛇口をひねって水で手を流し始める。
何が起きているのか、何をしてるのかサッパリ分からない私は、水を当てているお父さんの手を覗き込んだ。
すると、真っ赤に爛れた手が目に飛び込んで来た。
「パパ……なんで……、手が赤くなってるの……?」
声を震わせながら問いかけたのに、お父さんは答えずに、痛みに耐えるように眉をしかめている。
……なんで?どうしてそんな事になったの?
お父さんはただ私の手を握っただけなのに。
いくら思い返しても、自分の小さな掌を見ても全く分からない。
全然分からないけど、きっと私のせいのような気がする。
「ごめん……なさい」
水が流れる音が響くキッチンで、何度も泣いて謝った。
「パパ、ごめんなさい……」
そんな私に、お父さんは脂汗を流しながら宥めるように言った。
「大丈夫だよ。シエルのせいじゃないから」
その言葉で何が原因だったのか、余計に分からなくなった。
でも、気付けば手のポカポカも、キラキラも無くなっていて、不思議な気持ちでじっと自分の小さな手の平を見た。
「……あれ?」
私は大きく首をひねった。
…………
……
私はついに5歳になった。
相変わらず毎日毎日、暇でする事がない。
ちなみに、あのよく分からない現象はあれから一度もない。
両親に理由を聞いても濁されるだけで教えてくれなかった。
お父さんの手はただれてしまったけど、なんとか普通に物を掴めるまでに回復した。
絵本が散らかる畳みの上にごろりと寝転がった私は、おもむろに服の中からネックレスを出す。
それを薄暗い天井にかざすと、突然小さな光を放った。
でも瞬きをすると、見間違いだったかのようにスッと光が消えた。
光の屈折とかなんだろうけど、時々、この石が自発的に光って見える。
「今日も綺麗……」
この石は深い青色で、微かに入る太陽の光で青が透けて見える。
それはまるで深い深い深海のよう。
この家から出れる6歳まで、あと約1年となった。
……結構長いな。
せめてネットが使えたらいいのに。
「なーんもないもんね。ここは」
心の声が漏れると、ふと私を殺した奴の台詞が脳裏に浮かんで来た。
『あれぇ?まだ生きてんの。早く死んで』
時々忘れないようにリピート再生している黒髪の殺人鬼の声。
前から感じていたけど、これって、通り魔にしては違和感のある台詞だと思う。
だって、他の所にも行かずに、わざわざ私が死んだかどうかを確認したって事でしょ?
通り魔なら、1人1人まだ生きているかなんて確認しない気がする。
そう考えると、私を狙っての犯行に思ってしまう。
考えすぎ?
私は目を閉じて、必死に考えてみる。
でも……あんな髪型の知り合いなんて1人も思い当たらない。
誰かに恨まれるような人生は歩んでいない。
というか、そもそも人と関わる事すらほとんどない人生だったし。
そう考えると、やっぱり考えすぎに思ってしまう。
死んだショックのせいか、倒れ込む前の記憶がスッポリ抜け落ちていている。
ボロアパートを出て、結婚式場に向かっていたはずなのに――次の記憶はもう血の海の中。
この間に、何があったんだろう?
1番肝心な部分はいつも思い出せない……
もどかしい。
「うーん……」
抜け落ちた記憶を思い出せたら、色々とハッキリするのかもしれないのに……
せめて調べる手段があればいいのになぁ……
今時、通信機器が一切ないとかどうなってるの?スマホくらい持とうよ!
日付だって覚えているから、調べたら過去の事件とか訃報とかまですぐに分かるはずなのに!
それすら出来ないこの状況に、もう頭を抱えるしかない。
そんな時、パタパタとスリッパの音が近付いてきた。
見上げた先には私を覗き込むお母さん。
「どうしたの?頭なんて抱えて」
「なんでもない」
「そう。ママ、ちょっとお買い物行ってくるから」
エコバック片手のお母さんは、壁の時計を差した。
「長い針が下になるまでに帰ってくるから、いい子にしててね」
やっぱり私、1年なんて待てない!
「ママ」
「どうしたの?」
いい子でいた方が、より愛されると思って、極力ワガママなんて言ってこなかった。
聞き分けない子だと思われたくなくて、誕生日の日からずっと我慢してきた。
でも、やっぱりこんなのおかしい!
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