転校生4
「え~?黒髪?見てへんけどなぁ」
「そうですか。ありがとうございました!」
彼が何かを言いかけていた気がしたけど、それを無視して、私は頭を下げるとすぐに走り出した。
すると、すぐに背後から謎の会話が聞こえて来た。
「おい、勝手に違う所行くんじゃない」
「え?トイレ探してただけですってぇ」
「ああー、そうか。それは仕方ないな。それにしても君は私物が多いな。ある程度置いて来た方が良かったな。まぁ、すぐに全部回収して家に送るからな」
私物……?
そんな謎の多い会話があまりにも気になって、走りながら振り返ると、管理事務員のクリフオジサンと、さっきの男子が廊下で話している様子が映った。
結局、あの後、いくら探しても黒髪の人は見つからなかった。
それは、まるで神隠しのようだった。
翌日――
あの時、一瞬だけ後ろ姿を見ただけで、顔までは確認できなかった。
それなのに、直感的に『犯人だ』と思ってしまうのはなんでだろう?
ここは前世とは全く違う世界。
普通に考えたら、髪型や体格が似ているだけの他人の空似。
……そう考えるべきだ。
……ん?
あれ?あの後ろ姿、肩幅も広くて、背は180cmはありそうな高身長の男性だったような気がする。ずっと髪が長いから女性だと思い込んでいたけど、違う?
あの姿は、記憶にある姿にかなり近かった。
って事は……私を殺したのは、髪の長い男性?
前世で髪の長い男性……
そんな人が知り合いに居たら絶対に忘れるわけが無い。
なのに、犯人の言動は、私を殺したがっていたように思える。
「うーん……」
それにしても、この学園に13年くらい居るけど、あんな姿は一度も見た事がない。
私服だったし、もしかしてまた新しい特別講師とか?
それとも国の関係者?
もし国の関係者だったら、一時的な出入りだけで、もう二度と会えない可能性もある。
「はぁ~……」
すぐ追いかけなかったことが、どうしても悔やまれる。
私服と言えば――
昨日のあの派手な人は、結局何者だったんだろう?
そんな事を考えていると、教室の扉が開く音が耳に飛び込んできて、現実に引き戻された。
「皆さん、おはようございます」
ワントーン高い声が教室に響き渡ると、胸の開いたシャツを着たFクラス講師が顔を見せ、カツカツとヒールの音を響かせながら教卓へ向かった。
もう今となっては、講師の服装を見るだけで、今日はディオンが来る日だと分かるようになってしまった。
「突然ですが、今日は皆さんに驚きのお知らせがあります」
講師は教卓にドンと手をついて声を張った。
「なんと、このクラスに転校生が入ります!」
その言葉に、一瞬静まり返った教室は、次の瞬間ざわつき始めた。
「転校生って、何?」
「そんなのあるの?」
「魔法学園は日本ではここだけでしょ!?」
「まさか海外からの転校生とか?」
私が思った事と同じような会話が教室内に飛び交う中、講師は閉じたばかりの扉にステッキを向けた。
するとガラガラっと音を立てて再び扉が開く。
「では、入って来てください」
講師の声の後、扉からスラリとした長い脚が現れた。
そして――
昨日、ぶつかったあの派手な男子が、教室へ入ってきた。
「えっ」
思わず心の声が漏れる。




