転校生2
「だから、そう言ってるじゃん」
「……ならいいんだけど?」
メイが溜め息混じりに言った言葉に、つい首を傾げてしまう。
「ならいいって、どういうこと?」
「だってサオトメ様、来月の進級試験でついに飛び級するかもしれないじゃない?」
「うん」
「もし飛び級したら、あと1年ちょっとで卒業でしょ?その後は、何年も……いや、何十年も会えなくなるかもしれないじゃない?」
「うん……そうだね」
それは凄く淋しい……
「だから、もし本当は両想いなら、早く気持ちを伝えた方がいいんじゃないかって思ったの!」
そこまで言われて、ようやくメイの意図が分かった私は、手に持ったクレープを見つめながら深く考え込んだ。
「そっか……」
卒業するまでは学園から出る事も、学園外の人と会う事さえ出来ない、この厳しい規則。
森に囲まれた学園は、高い壁に閉ざされ、どこまでも続くその壁には完璧なセキュリティが施されていた。脱走は不可能だと、身をもって知っている。
唯一外の世界が見えるのは、たまに開門された時の道路と、見張り台のような展望台から遠くに見える高い建物の先端くらい。
だから卒業したら、会うどころか、顔を見ることさえできなくなる。
その時、ふとローレンが『ここの講師になりたい』と言っていた話を思い出した。
でも、その話を口にするのは止めた。
まだ不確かだし、勝手に言うのはよくないだろうから。
もし、ローレンが講師にならなかったら……
メイの言う通り、一生会えなくなるのかもしれない。
そんなことを想像するだけで淋しさを感じる。
でもこの淋しさは、メイと会えなくなる事と変わらない気がする。
いや、メイと会えなくなる方が、きっともっと淋しい。
……『好き』、か。
なんか難しいな。
前世は生きていく事だけで精一杯で、そんな感情を考える余裕なんて無かった。
婚約者にも恋愛感情は無かったし、お互い幸せを願っての契約婚のようだった。
今は時間的な余裕があるけど……
それでも私は未だにその感情が分からない。
どの世界でも、みんな当たり前みたいに恋愛をしているのに……
「ねぇ、恋愛感情の『好き』って……何?普通の『好き』と何が違うの?」
薄い雲が張り付いた高い空を見上げながら呟くように聞くと、メイが答える。
「うーん……。私はBクラスのケインくんしか付き合った事ないし、ちゃんと好きだと思った人はシエルが知ってる通り、3人しかいないからそんな偉そうな事言えないんだけど……」
「うん」
「私が思うには、『この人とずっと一緒に居たい、傍にいたい』って思う気持ちが恋愛の『好き』なんじゃないかなって」
「ずっと、一緒に居たい……傍にいたい……」
「そう。離れる時は本当に名残惜しいし、もっと触れたいって思うし、笑顔を見るだけで胸の奥がギューッと熱くなる……そんな感じかな」
胸に手を当て、少し照れたように話すメイの姿は、まさに恋する乙女そのものだった。
もしそれが『好き』なら、やっぱりローレンには当てはまらない。
「……メイの話を聞いて確信した。やっぱりローレンはただの友人だよ」
「そっか」
その時――
風を切るように、上下黒い服を纏った人物が私達の前を横切った。
一瞬、時間が止まったような感覚に陥る。
まるで、強力な磁石で吸い寄せられるように、私は勢いよく振り返った。
私の瞳に、クセひとつない艶のある黒髪が腰まで垂れる人物の後ろ姿が映りこむ。
「……えっ……」
息の仕方さえ忘れる。
歩くたびに毛先が左右にゆらゆら揺れている様子が、時計の針が狂ったかのようにスローモーションで見える。
なぜなら――
その後ろ姿は、どっからどう見ても前世で私を殺した人物にそっくりだったからだ。
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