屋上でのひと時2
さっきまで何もなかった場所に、どこかの高級フレンチレストランから抜き出されたような、椅子とテーブルのセットが現れていた。
猫脚の可愛らしい椅子とテーブル。その上には、レースが美しくあしらわれた、太陽のように真っ白なランチョンマットが敷かれている。
テーブルの上の皿には、真っ白なパンの間から厚みのある玉子が顔をのぞかせている。
「見たら分かるだろ。どっからどう見ても玉子サンドだ」
確かに、それは見れば分かる。
でも、そんな事を聞きたいんじゃない!
この状況は一体何なのかを知りたいのよ!
「座れ。そして食え」
ディオンに指を差された瞬間、私の体は意思に反して勝手に立ち上がり、その高級レストラン風のテーブルへと進んでいく。
「ちょっと!ディオン!人の体、勝手に動かさないでよ!」
「お前がちんたらしてるからだろ」
近付くと椅子がひとりでに引かれ、座ろうとした瞬間、スッと押し出された。
まるで見えない誰かにエスコートされているようだ。
その原動はあのサイコパスだというから、驚きしかない。
こんな事して、一体何を企んでいるんだろう。
目の前の玉子サンドも、私の為に用意した……なんてあり得ないはずなのに、それ以外の理由が思いつかない。
「食わねーのかよ?」
いつの間にか向かい側に座るディオンは、無駄に綺麗な顔で頬杖をついている。
白銀の髪が優しい太陽の光に照らされ、眩しい位に輝き、長めの前髪はさやさやと風に揺らされている。
本当に美しい顔で、やっぱりそれが憎たらしい。
多分、前世を含めて今まで見て来た中で断トツで1番かっこ良くて、美しいと思う。
声だってカッコイイし背も高くて手足が長い。
中身以外に関しては非の打ちどころが見当たらない。
悔しいけど、この前のSクラスの女生徒たちが騒ぐのも分かるのよね……中身を知らなければ。
そんな事を考えていると、芳醇なパンの香りが鼻をくすぐった。
誘われるように視線を下げると、今まで見た中で一番美味しそうな玉子サンドが目に入って、思わずゴクリと生唾を飲み込む。
騙されたらいけない!
こいつが出した物ってことは、何か仕掛けがあるのかもしれない!
毒でも入っているのかも……
それか、嚙みついた瞬間に爆発するとか……
そんな事を想像するとゾッとして、手を伸ばすのを躊躇してしまう。
「これ、食べれるの?」
恐る恐る指を差して聞くとディオンは鬱陶しそうに顔をしかめて言った。
「食えねぇもん出すかよ」
「うーん……」
サンドイッチとディオンを交互に見て葛藤していると、香ばしい香りにつられて、ついに私のお腹が大きく鳴り響いた。
「でけぇ音。さっさと食えよ」
とククっと笑われ、恥ずかしさで頬を染めると、突然私の口に玉子サンドが飛び込んで来た。
「……うぐっ!?」
驚きで目を見開いたけど、その驚きはすぐに口いっぱいに広がる美味しさにかき消される。
焼き立てのパンのような香ばしい香りに、絶妙な柔らかさ。
噛み締めると新鮮な卵の濃厚な味がじわりと広がってくる。
パンはしっかりとしていて、それでいて中の玉子はしっとりとしている。抜群のバランスだ。
「んー!?お……美味ひっ、何これ……」
思わず頬を押さえて笑みがこぼれる。
そしてもう一口食べようとした時、「ん、どれ」と、ディオンが机に乗り出して来た。
突然の動きに驚いて、その意図が分からずに見ていると、ディオンの美しい顔が異様に近づいてきて――
私が手にしていた食べかけのサンドイッチを、まるで当然のようにかじった。
「あっ……」
それって……、
間接キス……じゃ……




