屋上でのひと時1
学園の屋上――
「なんでここにいるんでしょーか?」
目の前に現れたディオンに引きつった笑顔を向け、心の中でシッシと手を振り払う。
私の心の内を知らないディオンは「いたらいけねぇのかよ」と言って、屋上の柵の前の小上がりに座っていた私の横に、無遠慮にドカッと座ってくる。
なんで隣に!!と、頭の中の私が大きな悲鳴を上げる。
そんな私の心情とは裏腹に、ディオンはゆったりとした感じで長い足を組んだ。
週1回、特別授業でこいつの顔を見ないといけないのはもう仕方ないと思ってる。授業だけは確かに素晴らしいし。
でも、それ以外の時間は絶対に一緒にいたくないのに!
「いけないですねー」
「んだよ。学園に着いたら、ぼっち飯してるのが見えたから来てやったのに」
「ぼっちじゃないです。ほら!ラブもいるので!」
ドングリ頬張っているラブを抱っこして、見せつけるようにディオンの顔の前に持っていく。
「うっ、止めろ。ドングリくせぇ」
ディオンは眉をひそめて、口元を覆う。
ちなみにメイには『直射日光はお肌に悪い』と、いつものように屋上で一緒に食べる誘いを断られてしまった。
外で食べた方が絶対に美味しいのに。
「そう?香ばしい香りよねー?」
私はラブをディオンと反対側に戻し、もふもふの頭を撫でながら笑いかける。
そしてディオンにキリっとした目を向けた。
「だから、私の事は気にせず……ん?」
その時、ディオンの口がモゴモゴと動いている事に不思議に思った。
なぜなら、ディオンは手ぶらで空から降りて来たからだ。
嫌な予感がして、私はそっと自分の膝の上に置いていたサンドイッチボックスに視線を落とす。
すると、そこには……右半分のサンドイッチが綺麗サッパリと消えているサンドイッチボックスがあった。
ちなみに私は、まだ一口も食べていない。
その光景に思わず大きな口を開けて目を見開いた私は、急いでディオンに視線を戻す。
すると、ちょうどディオンの口にサンドイッチが放り込まれる瞬間で――
「あぁっ!!ちょっ!私のサンドイッチ!」
手を伸ばそうとしたけど既に遅く、あと一歩のところでディオンに食べられてしまった。
「んー、悪くねぇな。これ」
ペロリと満足げに舌を出すディオンの姿に、私の中で怒りがふつふつと湧き上がる。
でも、それ以上に大きな悲しみが押し寄せてきた。
「あぁ……わ……私の……」
あまりのショックにそれ以上言葉が出なくなった私は、愕然と俯く。
「えっ、お前まさか泣いて……」
「泣いてないわよ!!」
涙目のまま、キッと鋭い目を送りつける。
「酷い!勝手に食べるなんて!」
「は?言っただろ。貰うぞって」
「言ってないよ!聞いてない!」
「言った」
「もし言ったとしても、私がいいよ、って言ってないじゃん!」
「小せぇなぁーサンドイッチごときで。小せぇのは胸だけにしとけよ」
「む、胸!?それ今関係ないでしょ!」
思わず自分の胸を両手で隠してしまう。
「ごときじゃないわよ!早く私のサンドイッチ返してよー!」
ムカついてディオンの肩をポコポコと叩くと、鬱陶しそうに腕でガードされ「やめろ」と一言。
「ってか、まだ半分くらい残ってんだからそれ食えよ」
「残ってないよ!」
「は?お前、目玉付いてんのかよ」
呆れた目で見下ろされる。
「1つも残ってないのよ!私の大好きな玉子サンドが!全部あんたのせいで!!ほら!見てよ!」
怒りに任せて叫びながら、ディオンの目の前に中身が半分になったサンドイッチボックスを突き出す。
「はぁー、…………別にいいじゃねぇか。他の食えば」
「だーかーら!聞いてた!?私は玉子サンドが好きなのよ!
この玉子サンドは1か月に1回しかメニューに登場しない、幻の玉子サンドなのよ!」
「んな大袈裟な……。なんだよ『幻』って。馬鹿馬鹿しい」
「大袈裟なんかじゃない!あんたが食べた玉子サンドは、私がチャイムが鳴った瞬間から走り出して、争奪戦に勝ち抜いた戦利品だったんだから……!
それを、食べられてた私の悲しみ、あんたに分かる!?」
「……分かったよ。返せばいいんだろ」
そう言われた直後――
目の前に広がる光景に、私は言葉を失い、開いた口が塞がらなくなった。
「えっ…………こ……これ、は?何?」




