人質に取られたラブ3
そう思った時――
「もう行こう!一つ上の階かもしれない」
「そうなの?」
「お邪魔しました~」
と、女生徒たちが扉を閉めてバタバタと走り去って行った。
その瞬間を待ちに待っていた私は、椅子が倒れるくらいの勢いで立ち上がる。
そして気付けば、手に力が戻っていた。
「なんなのよ!こんな事して!」
「だって、お前、俺の事バラす気だっただろ?」
見透かすような目で言われた図星の台詞にドキリとする。
たしかに、そうだったけど……
でも、こんなのやり過ぎでしょ!
こいつに盛大な文句を言ってやりたいところだけど、ここは我慢する方がいいんだろう。
バラそうとしていた事が確定してしまうと、さらに厄介な事になりそうだから。
「もういい!早くラブを返して!」
キッと睨んで手を出すと、「真っ赤だな」と言われる。
ディオンはスッと立ち上がり、夕陽の影を私に落とした。
「あ……あんたのせいでしょ!」
「は?俺のせい?」
不思議そうに、ズイっと切れ長の綺麗な目を近付けてくるから、更に赤くなりそうで焦りを感る。
「な、何……よ!?」
「あー、なるほどな」
突然、意味不明に満足気な顔をしたディオンは、私から離れてふわりと宙に浮く。
そして「んっ」と言ってラブをポイっと投げて来た。
「あわわっ!」
上手くキャッチしてから怒鳴るように言う。
「ちょっと!投げないでよ!」
「いちいち煩せぇ」
片耳に指を突っ込んでそっぽ向くディオン。
「煩くもなるわよ!ラブが怪我したらどうするのよ!」
「大丈夫だろ」
「何が大丈夫なのよ。どういう根拠で!?っていうか、追いかけられてるみたいだけど今度は何したのよ」
「なんだよ、今度は、って」
「どうせ彼女たちにも酷い事をしたんでしょ!?」
「前科ありみたいな事言うな。別に何もしてねぇよ」
不満げに口を歪めるディオンの胸を小突くように指先を向ける。
「何もしてないのに追われるわけないじゃない!それに前科なら、ありありでしょ!?私の首を絞めたり、突き落としたりしたんだか……ら……」
その時、廊下から足音が聞こえて来て……ドアがガラガラっと音を立てて開いた。
「上にはいなかったね~。やっぱりカミヅキ講師の魔力はここから感じるんだけどな~」
と言いながら再び入って来たさっきの女子生徒達とバッチリと目が合う。
「あ」
皆の声が重なる。
「カミヅキ講師!やっぱりいたじゃないですか!!隠れるなんて酷いです!」
「チッ、講師の時間はとっくに終わってんだよ」
そう言ってディオンはシュッっと目の前から消えた。
私とSクラスの女子だけになった部屋に静けさが走る。
この後、ディオンをかくまった事について色々問い詰められるんだろうという不安が頭を過る。
でも、なぜか女生徒達は私には見向きもしていない。
「あぁ……立去る姿まで素敵」
「麗しいわ……」
女生徒たちはディオンが消えた場所に向かって手を合わせ、なにやら目を輝かせている。
「あっ、彼の魔力が講師室の方に移動したかもしれないわ」
「追いましょう!」
「はい!」
そう言って走り去って行く様子に、ぽかんと口が開いて塞がらなくなった。
「追いかけられていたのってまさか……そういう事!?」
そら……息を飲むほどに綺麗だけど……
あんな男のどこがいいの!?
「中身が大事なのにね。ね、ラブ」
ふと抱きかかえているラブを見ると、いつもアーモンドみたいな色をしている毛の色が、今は夕陽色に染まって赤くなっていた。
「ふふっ、ラブ真っ赤になってる」
……ん?
んん!?
真っ赤……
って、まさか……っ!!
一瞬でさっきのディオンが言った『真っ赤』という言葉が蘇って来て頭を抱えた。
まさかっ!!
さっきディオンが言って『真っ赤』って、夕陽に染まって真っ赤だって意味じゃ――!!
「ギャーー!!」
私は実験室の天井に向かって叫んだ。
お願いします!神様!
今さっき言った、『あんたのせい』という発言を取り消させて下さい!!
次は、屋上でのひと時になります(^^♪
やっと、アレに関しての話が進みます。
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