人質に取られたラブ2
目を向けると、胸にSクラスのオーロラバッチが光る、モデルのような綺麗な女性達が4人顔を出していた。
「すみませーん、ここにカミヅキ講師が来ませんでしたか?」
彼女たちの言葉を聞いた瞬間、私は状況を理解した。
ふーん。ああ、そういう事ね。
きっとディオンが、彼女たちに嫌がる事をしたんだわ。
だから追われてる。そうに違いない。
そんなの、かくまうわけないでしょ!
「はい、カミヅキ講師なら、こ……」
ここにいますよ!と言おうとしていた私の口は、チラッと奴を見下ろした瞬間に固まった。
なぜなら、奴の手の中にはラブがいたからだ。
しかもラブは、今にも泣きだしそうにぷるぷると怯え震えている。
ラブーーーー!!
え!?なんでラブが!!
今さっきまで机の上にいたのに!!
まさか……人質に取ったの!?
なんて最低な奴!と湧き上がる怒りを必死に押し殺し、女生徒たちがいるドアの方へ向き直る。
そして慌てて予定を変更した。
「見てません」
「そう……見てないのね」
「ありがとう。自習中だったのにごめんね」
Sクラスの女子たちは礼を言いながらドア付近で輪になり、何やら相談を始めた。
その様子にホッと安堵する一方で、どこか悔しい気持ちも湧き上がる。
その時――
「……っ!?!?」
突然、足首辺りにくすぐったい感覚が走り、思わず肩を跳ね上げた。
くすぐったさに戸惑う間もなく、その感覚は膝へと移動していく。
微かに感じる温もりに目を向けると、ディオンの手が膝の上にすっと円を描いていて、理解出来ない状況に目を見開いた。
えぇ!?な、何してんの!?
「んっ……」
くすぐったさに思わず変な声が漏れてしまい、女生徒の一人がこちらを不思議そうな目で振り返る。
その視線に気づいて、全身に変な汗が浮かんだ。
気付かれないように、私は何事もなかったふりをして口元に手を当て、わざとらしく咳払いをした。
「でもおかしいわね。この辺りからカミヅキ講師の魔力を感じたのに……今だって……」
そんな会話に、更に私の心臓が早くなる。
ひー!!
怪しまれてるっ!!
捕まる前の犯人の気持ちってこんな感じ!?
めちゃくちゃ心臓に悪いよぉ!
でも、何も悪い事してない私が、どうしてこんな奴をかばってドキドキしないといけないのよ!
「もう!やめてよ!」
小声で奴にそう言と、逆にクッという笑い声が返って来てイラっとした。
「何を?」
完全に弄ばれている!
でも、ラブが人質になっている以上、あまり強く出ることはできない。
「何をって……」
もうっ!!その手を止めてって言ってんのよ!!分かるでしょ!!
私は怒りを抑えきれず、手で煽ぐようにして奴の手をペシペシと叩いて払いのける。
すると、舌打ちが聞こえたかと思うと、スッと触れていた感覚が消えた。
ホッと肩をなでおろしたのも束の間――
次の瞬間、自分の意志とは無関係に手が机の上に乗り上げた。
目の前にあるのは自分の手なのに、動かそうとしても全く言うことを聞かない。
「……っ!?」
驚いていると、再び膝に触れる感覚が走って足がピクっと震えた。
その感覚は今度は内ももに滑り、今度は全身が跳ねててしまった。
「ちょ、ちょっと……」
本当に何してるの!?
恥ずかしさと、バレるのではないかという緊張感でどうにかなってしまいそうだ。
つつつ……と内ももを指で辿られて、下半身が勝手にビクビクと震えてしまう。
そんな私に、ディオンは嘲笑いながら「魚みてぇ」と言ってくる。
誰が魚よ!
心底ムカつくのに、ディオンの手に合わせて何度も震えてしまう自分が悔しくてたまらない。
「本当に……やめて……よ。バレるわよ」
私で遊ばないで。




