Fクラス特別講師2
そしてこれを脅し材料にして、色々と利用するのも悪くないかもしれない。
そんな考えが浮かび、不敵な笑みがこみ上げてくる。
「ふふ……」
「他にカミヅキ様に質問がある人~いませんか~?」
だから、何なの?さっきからその『カミヅキ様』って……
講師の浮かれた声にウンザリしながら教室内を見回すと、さっきの『くだらねぇ』という一言のせいで、誰も質問する気配がない。
「もう質問がなければ、この後は……」
質問ねぇ……
あっ、そうだ!
「はい」
勢いよく手を上げると、奴と目が合う。
その瞬間、奴の眉がピクッと分かりやすく動いた。
「タチバナさん、どうぞ」
講師に指名され、私は立ち上がり、机に手をついた。
「はい!瞬間移動ってどうやってやるんですか?」
あえて何も企んでないですよ、という顔を作りながら聞いてみる。
実は、この質問の答えを教えてくれる講師は、今まで一人もいなかった。
何人かに聞いたことがあるけれど、みんな濁すばかりで、誰一人として具体的なやり方を教えてくれなかった。
多分、教えてはいけない学園のルールがあるんだろう。
その理由はきっと――アレだろう。
さぁ、ディオン様とやらはどう出る?
他の講師みたく困った顔をするのか、それとも、規則を知らずにうっかり教えてしまうのか……
私からすると、どちらに転んでも美味しい話でしかない。
そう思っていたけど……
私の目論見は見事に外れ、Fクラス講師が間に割って入ってきた。
「それはSクラスで習う事ですよ?知ってるでしょ?」
「知ってますよ。でも早めに教えてくれたっていいじゃないですか」
「瞬間移動は、Sクラスの生徒でも全員が獲得出来るような簡単な魔法ではありません。とても難しく、慎重にならないといけない魔法です。だから、もう立派な魔法使いと呼んでも恥ずかしくない、卒業が確定した生徒だけに極秘で教えることになっているんです」
あぁ、やっぱりそうなんだ。
これで前々から予想していた事が確信に変わった。
やっぱり――
この学園から逃げられないようにするために、卒業間近の生徒以外には瞬間移動を教えてないんだ。
という事は、逆に言えば、瞬間移動さえ出来るようになれば脱園できるってこと。
だからどの本にも書いていないし、どの生徒も知らないわけだ。
どれだけ私達を学園内に閉じ込めておきたいのよ!
その時、チャイムが鳴り響いた。
「は~い。では2時間目はここまでにします。この後休憩を挟んだ後はカミヅキ様の特別授業になりますので、遅れないように気を付けてくださいね~」
多目的棟の美術室――
奴の顔を見るのは心底嫌だったけど、SクラスやAクラスでしか実施されていない特別授業がどんなものなのか、少し興味はあった。
きっと驚くほど派手で、ゴージャスな内容なんだろうと想像していたのに、結果は完全に肩透かしだった。
「あれ?これ……特別授業で合ってるよね?」
隣で魔法で絵を描くクラスメイトに小声で話しかける。
「うん。合ってるよ」
「これのどこが特別授業なの?何も特別な事なんか無いじゃない」
『魔法でスケッチ』なんていつもやっている基礎中の基礎の授業だ。
コントロール力を育てるには重要かもしれないけど、特別感はゼロだ。
「そうだよね。なんかガッカリ。私も、もっとすごい感じを想像してたのに~」
やっぱりクラスメイトも、同じことを思っていたらしい。
絵の見本が今にも動き出しそうなくらいリアルなだけで、授業内容自体はいつもと大して変わらない。
「よし、書けた!」
魔力の覚醒をしてから調子がいい私は、1番乗りで書き終えてしまった。
それにしても、我ながらに上手く描けている。
前は、魔法で紙に線を描くのすら難しかったのに。
顎に手を当て、自分の描いた絵を満足気に見ていると、その絵に影が差し込んだ。
見上げると、腰に手を当てて私を見下ろす特別講師が映った。
「もう描けたのか?」




