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【大賞受賞作】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?~あなたがくれた幸せの呪い~  作者: 花澄そう


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学園最年長1


『ママ、パパ』

悲痛な叫びを上げる小さな子供たちが、毎月この学園に収容される。


表向きは自由があるように見えても、実際はほとんどのことが制限される――まるで監獄のようなこの場所に。


下手をすれば、()()ここに囚われ続けることになる。



ローレンみたいに、ここの子供たちを救いたいと思ったことは、私にも何度もあった。


でも、そう思うだけで明確な方法までは考えたことはなかった。




卒業後、私は復讐のために時間を費やすと思う。

でも、もしその復讐が叶わなかったら……?


私は、どんな道を選ぶだろう。



どうしたい?

どうなりたい?

何が出来る?



そうなったら、やっぱり私は……



ローレンと別れた後、家路につく途中で、ふとどこまでも続きそうな青い空を見上げた。

そんな空を見ながら、頭の中で自分に問いかけていた。



一人家路についていたけど、なんだかスッキリしない気分で、お気に入りの花畑へ続く細い道に足を向けた。




細い道を進み、木々の間から差し込む陽の光を抜けると――そこには私のお気に入りの場所が広がっていた。



いつも四季によって色を変える花畑が広がるこの場所は、今は小さく可憐な空色の花が辺り一面に咲き誇り、小さな海を作っていた。



「うわぁ。かわいい……」

空色の絨毯じゅうたんが、くすぶっていた私の心に光を当てる。


「あれ、タチバナちゃん」

どこからか聞こえた声に振り返ると、花畑の端で手を振る友人エルバードの姿が目に入った。

深いシワが刻まれた顔に、少し背中の曲がった体――彼は、学園最年長の生徒だ。



「エルバード」

エルバードは、この学園にいる数少ないお年寄りの生徒の一人。


ちなみに現在Dクラスだ。

だから、学園を出ることなく、命を終える運命にあると言われている。


そんな現実を想像すると、胸がひどく痛む。

でも、それをどうにかする力なんて、今の私にはない。



もし、復讐以外の道を選べるなら――

私は、この学園にいる全員を自由にできる仕事を選びたい。

そんな仕事が実際に存在するかは分からないけど。



「こんな所で何しているんですか?」

エルバードに近付くと、彼の手には土のついた布手袋がはめられているのが見えた。


「もしかして、この花畑ってエルバードが?」

エルバードは静かに手袋を外し、くるりと丸める。そして、シワの刻まれた顔に優しい笑みを浮かべながら、目を細めて答えた。


「そうだよ。綺麗だろう。ちょうど2日前から花が咲き始めてね。今日は凄くいい天気だから明日くらいには満開になると思うよ」



腰をトントンと叩き、近くのベンチに腰掛けるエルバードを見届ける。


「いつも丁寧に手入れされていて綺麗だから、よく見に来ていたんです。まさかエルバードが育ててただなんて……」


「そうだったんだ。タチバナちゃんが見に来てくれていたなんて知らなかった。嬉しいよ。ありがとう」

「こちらこそ、いつも綺麗な花畑をありがとうございます」

フフっと笑い、目を糸のように細めるエルバードが、少し体を前に傾けて口を開いた。


「そういえば来月の進級試験だけど、調子はどうだい?……まぁその前に魔法会もあるけどね」


「実は私……知っているかもしれないんですけど、『魔力の覚醒』をしたみたいで……」

「え!?タチバナちゃんが魔力の覚醒!?その話、本当かい!?」


あれ?エルバードの耳には入っていなかったんだ。

あんなに騒がれていたのに。


「はい。だから次はついに合格出来るかもしれないんです」

そう言いながら、頬をポリっとかく。


「おおーー!そうかそうか!良かったねタチバナちゃん!これで一歩卒業に近付いたじゃないか!」



「ありがとうございます」

「でも、さっき浮かない顔だったね。何か悩み事でもあるのかい?」

そう聞かれて、さっきまで考えていたことが頭に浮かぶ。



「……将来について、色々考えてたんです」

「将来?そうか、君もそんな年になったんだね。時が経つのは早いね」

エルバードと初めて話したのは、8歳か9歳くらいだったっけ……



そう思っていると、遠くからきゃーきゃーと女子の高い声が聞こえてきた。

目をやると、遠くにあのディオンとかいう奴が歩いている様子が目に飛び込んできた。

その後ろには、まるで取り巻きのように女子たちがぞろぞろとついていっている。


「何、あれ……」

ぽつりと呟いた言葉に、エルバードが答える。

「特別講師だよ」

……知ってる。でもなんなの?あの集団は。



明日から、奴の授業が始まるんだよね。

やっぱり――すっごく憂鬱ゆううつだっ!!


想像すると、一気にズーンと心が沈みこんで勢いよく頭を抱えた。

すると、エルバードが「どうしたんだい!?」と心配そうに覗き込んだ。


「私、あの人が苦手なんです」

「そうなんだ。でも、関わることなんて無いだろう?」

「明日から、特別講師の授業が始まるんです」


「え?君のクラスで??……あれ?特別講師はSクラスかAクラスにしか付かないはずだけど……」

「そうなんですか?」

「そうだよ。Fクラスに特別講師なんて聞いたことないよ」

「そうなんですね。よく分からないんですけど、なんか『下を育てる』とか話してましたよ」

首を傾げながら言った私の言葉に、エルバードの顔がみるみる真っ青になっていく。


「えっ……」


驚きで固まるエルバードに、何事かと思わず不安を感じた。

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