どうして私たちの子供ばかり3
「ママの目……」
心配になって聞くと、「ああ、これ?ちょっと怖い夢見て泣いちゃって……こんな年になってまで恥ずかしいわ」と困ったように笑って目元を隠した。
その瞬間、それは嘘だと思った。
「シエル疲れていたのね。実はもうお昼なのよ」
「えっ?そうなの?」
言われてみれば、驚くほど長い時間眠っていた気がする。
でも、なんでこんな時間まで起こしてくれなかったんだろう?
いつもは『規則正しい生活』と言って、7時ピッタリに起こしてくるのに。
やっぱりおかしい。
そう思っていつも通りに体を起こすと、座るのさえ億劫に感じる、全身を覆うような疲労感が襲ってきた。
ん?何?これ。
体が、いつもと全然違う……
寝すぎたんだったとしても、あまりにも体が重すぎる。
「お腹空いたでしょ?シエルのご飯の準備をしてくるわね」
お母さんはパタパタとスリッパの音を立ててキッチンに消えていく。
そんな姿を見届けたあと、私はじっくりと部屋を見回した。
部屋の壁紙が何か所か剥がれている。
それに、一部は焦げたような、溶けたような痕まで。昨夜までは絶対に無かったはずなのに……
やっぱり、今朝のあの光景は夢じゃない?
もしあれが現実だったとしたら、なんであんな荒れた部屋になったんだろう?
喧嘩とか、そんな様子じゃなかったし……
この事は聞いていい事なのかな?
聞いても、なんとなくお母さんは隠したそうだし……
寝起きで上手く働かない頭でそんな事を考えていた時、バンッ!と玄関のドアが勢いよく開いて体が小さく飛び上がった。
「手に入れたぞ!」
帰宅して来たお父さんは、家中に響き渡る程の大声を上げて家の中に入って来た。
いつも帰宅後は、必ずすぐに手洗いうがいをするお父さんなのに、今日は手も洗わずに真っすぐ寝室にいる私の元に駆け寄って来た。
「あれ?今日パパ仕事は?」
私の前に膝をついてしゃがみ込むお父さんは肩で息をしている。
走って帰って来たんだろうか。
「あぁ、ちょっとな」
そう言うと、お父さんはポケットからすぐに青く輝く石の付いたネックレスを取り出した。
「パパ、それ何?」
「これは、シエルを守るお守りのようなものだよ」
「お守り……?」
首を傾げると、お父さんはニコっと笑って、ネックレスを私の頭頂部からくぐらせて首に下げた。
大人用なのか、チェーンの長さは合っていなく、石はみぞおちあたりでぶら下がっている。
私はその石を持ち上げて目の前に持って来て見詰める。
ラピスラズリのような深い青い石は、この薄暗い部屋でも綺麗に光輝いていた。
「綺麗……」
形はシンプルな楕円形で、触るとツルっとしていて手触りも良い。
「気に入った?」
「うん」
お父さんは、一安心したような顔で私の頭に手を置いた。
「よかった」
「まさか……、それって言ってた物……?」
豆鉄砲でもくらったような顔のお母さんが、こちらの部屋を覗き込んで聞いて来る。
「そうだよ」
意味深に言ったお父さんの言葉に、お母さんは「信じられない……。正真正銘の……本物なの?」と驚きを隠せない様子でこちらに足を向けた。すると……
「あっ!痛っ……」
突然顔をしかめたお母さんは自分の足先を掴んだ。
なんと、寝室の入り口にあるタンスの端で足の指を打ったようだ。こんなドジなお母さんは初めて見た。
「ママ、大丈夫!?」
立ち上がろうとすると、「大丈夫よ」と顔を歪めながら片足で跳びのままこっちに来る。
なんともギャグっぽい姿なのに、顔は真剣なお母さんに全く笑えない。
私の目の前まで来たお母さんは、しばらくネックレスの石を見てから言った。
「はぁー、凄いわね。本当に手に入れれるなんて……」
「でも凄い額だったよ。もう、まともに食っていくのもキツくなるかも知れないけど、家族3人一緒に居られるなら俺はもう何もいらないと思ってる」
「あなた……。私もよ。私も頑張って働くから。ありがとう……」
お父さんは、涙ぐんで言うお母さんの手を握った。
「お前……」
何の話をしているのか全く分からない私の前で、お母さんはお父さんにキスをした。
ちょっと……、子供の目の前でまたこの人達は……
仲がいいのは良いけど、見てるこっちも恥ずかしいから見えない所でやってほしい。
照れながら、まだまだ小さな手で目元を覆う。
「いいかい、シエル」
その声に呼ばれて指の隙間から見ると、もうキスは終わっていたようで、今までに見た事がない位に真剣なお父さんの目がこちらに向いていた。
「2つ、約束して欲しい事があるんだ」
「約束?」
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