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【大賞受賞作】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?~あなたがくれた幸せの呪い~  作者: 花澄そう


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優しさの形2


「違うよ。シエルちゃん。僕が臆病おくびょうなだけだよ」

「お、臆病……?なんでそんな事を言うんですか?ローレンはちっとも臆病なんかじゃなのにっ」


ローレンは人目を気にせず、誰にでも優しく接する心の強く温かい人だ。臆病なんて、彼には正反対の言葉だと思えるのに。


私の言葉に目を見開いたローレンは、再び笑顔に戻る。


「シエルちゃんは、将来したい仕事とかってある?」

話が急に変わって少し戸惑いを感じた。

もしかして、話を逸らされたのかもしれない。


でも、ローレンにとって深く入って欲しくない内容なんだと思い、それ以上聞かない事にした。


「いえ……ゆくゆくは考えないとって思っているんですけど、私はいつここを出れるかも分からないので……。ローレンは?」


ローレンはBクラス。

しかも100年に1人の逸材いつざいと言われている。

だから1回でも飛び級をしたら、後1年チョットで卒業になる。

いつ卒業出来るのか目星もつかない私とは全然違う。


でも、ローレンは試験日当日に体調を崩す事が多いみたいで、知識や能力は十分なのに未だにBクラスのままだ。


学園も、後日特別に試験を受けさせてあげればいいのに、って思うけど……あの堅物学園長だからな……


「僕はここを卒業したら、ここの講師をしようと思ってるんだ」



「えっ!?講師!?」

衝撃の言葉に、私はカップを置いた。


「どうしてですか?ローレンならもっと待遇のいい職に就けるはずですよね?」

つい率直に聞いてしまった。



魔法使いは貴重な存在だと授業で教わった。

魔法を使う仕事は色々あって、治癒や護衛、水の浄化みたいなものまで本当に幅広い。


この世界には『電気』というものがないらしく、代わりに魔力で作られた蓄積型の明かりが使われている。


何もかも魔法使い頼りのこの世界では、魔法使いがいなければ経済も生活も成り立たない。



山のようにある中で、講師の仕事は中の下と呼ばれているよう。

特別講師だけは別格らしいけど。


しかも特別講師や学園長以外は、あまり自由に学園を出入りできないと聞いた。許可がいるんだとか。


せっかく卒業して学園外に自由に出られようになるのに、あえてそんな職を選ぼうとするなんて……どうして?



「正直、今でもスカウトを受けているし、両親も卒業したら家業を継いで欲しいみたいなんだけど……」

「じゃあ、どうして……」


「シエルちゃんは僕が幼い頃、ここから逃げようとした話を聞いた事があるかな?」

その質問に少し後ろめたい気持ちで答える。


「はい……。有名だったので結構前に……」

私の言葉に、困ったように微笑むローレン。



「僕は、両親にとても大事に育てられていたんだ。僕は両親が大好きだった。今でもだけど。

だから5歳の検診後、すぐに両親と引き離されて、訳が分からないままいきなりこんな知らない所に連れてこられて……」


初めてこんな話をするローレンは、口こそ笑っているが、今にも泣きそうに見えた。



「本当に毎日、気がおかしくなりそうだった。淋しくて……両親に会いたくて……毎日一人で泣いていた。

その末、皆が知ってる通り、決死の覚悟でここから抜け出したんだ。でも門に感知器があったみたいで、出てすぐの道端で引き戻されてしまったんだけどね」

そう話すローレンに、どんな顔をしていいのか分からない。



ここの生徒は誰しも、幼過ぎる年で無理やり親から引きがされている。


親の顔も覚えてない子だって沢山たくさんいる。

でも、逆に親の愛情や記憶がある年齢で連れて来られた子たちの方が、辛いのかもしれない。



国が国民を守るという事をじくにした学園の厳重な規則。

それは分かるし、ある程度は理解も出来ている。


でもよく考えてしまう。

本当にこうするしかないのかな……って。



「僕みたいに悲しむ子供は、毎月のように強制的にここに連れて来られている。

僕は、そんな子供たちを精神的に支えてあげる存在になりたいと思っている」



「支え……?」

「そう。ここにはそういう心のケアをしてくれる大人はいないから。だから僕がそういう存在になろうと思うんだ」



ああ……

なんて優しい人なんだろう。


そんな事、思いつきもしなかった。


ローレンの言う仕事って、前世で言うスクールカウンセラーみたいな事だよね?

ただ、『納得がいかない!』って不満ばっかり言っている私とは大違いだ。

本当に恥ずかしくなる。



「凄くいいと思います!ローレンらしいというか……」

「僕らしい?」

「はい。とても素敵です」


心優しく、本当に素敵な人。

メイも周りの人達も、私とローレンに何かないのか疑ってるけど、そんなことを考えるのさえおこがましく感じる程の人。


やっぱり私はローレンをとても尊敬している。


そう思うと自然と笑みがこぼれた。



「私、そんな所が好きです」

「えっ……」


突然、ローレンの顔がボッと赤くなったことに驚く。

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