召喚5
やっぱ、訳の分からない奴だな。
あいつは否定したが、どっかの国のスパイとしか思えねぇ。マジで信用ならねぇ奴だ。
関われば関わる程に謎が増えていく。
なのに、それを強引に暴けない状況が、どうしようもなく腹立たしい。
あの時、こいつが泣いたせいで……
いや、待て。泣いたからなんだって言うんだ?
そんなの、いくらでも泣かせておけばいいだろ。
それくらい、いつもの俺なら痛くもかゆくもねぇはずだ。
なのに……
俺の中の何かが、それを全力で拒否しやがる。
「早く返してよ!そんな持ち方してたらかわいそうだよ!」
いつの間にか足もとに居たシエルが熊に手を伸ばしてくるから、俺は熊を取られないように更に手を上に上げた。
「おい、シエル」
「な、何よ……って、呼び捨てなんて止めてよね!」
「は?俺にそんな態度取っていいのか?そんな態度ならこの熊は一生返さねぇ」
「え!やだっ」
「なら、次から俺への態度に気を付けろ」
そう言って熊をポイっと投げると「危ない!」とキャッチするシエル。
「危ないでしょ!怪我でもしたらどうすんのよ!」
「おい、態度!」
俺の言葉に、シエルは悔しそうに下唇を噛み締めた。
「変な奴だな。さっきまでその熊に殺されかけてたくせに」
「そ、うだけど……今は可愛いし……?」
シエルは口を尖らせて口ごもる。
可愛い?
意味わかんねぇ。
ってか、こいつと話してると、なんか調子が狂うな。
長年、誰も足を踏み入れる事もなかった静かな水面。
それを、こいつは容赦なく波紋で乱していく。
関わらなければいいだけ。
なのに異常なほどに関わりたくなるのは――
一体なんなのか。
「チッ」
もういい。
こうなったら、とことん俺の中の俺に付き合ってやる。
そして、こいつが隠していることも全部暴いてやる。
「カミヅキ様!!あれ?あの熊は……」
今さら到着した教頭は、息を切らしながら辺りを見回している。
「教頭、ちょうどいい所に来た。下のクラスのレベルを上げろというお達しだったよな」
「はい、それが何か……」
「このクラスなら見てやっていい」
一瞬ぽかんとした顔をした教頭が慌てた様子で聞いてくる。
「えっ!?Fクラス……ですか?」
「ああ、そうだ」
「どうしてFクラス……」
「なんだ?不満か?」
「い、いいえ!とんでもありません!あ、ありがとうございます!」
ペコペコとお辞儀をする教頭に、シエルが眉を寄せて聞いてくる。
「……えっ?どういう、事?」
何百年もの間、時間をただ消費していくだけの退屈な日々だった。
だけど……
これからは何かが変わる気がする。
「俺がこのクラスの、特別講師になってやるって言ってんだ。感謝しろ」
「特別……講師……?」
シエルが不思議そうに首を傾げるのを見て、俺は背を向けた。
すぐに「待って」と引き止める声が響く。
「んだよ」
振り返ると、熊を大事そうに抱えたシエルが、なにやら言葉に詰まっているようだった。




