召喚3
俺は、すぐにさっきの現場を見下ろす。
この魔力を辿ると、熊の前にいる女生徒にぶつかった。
その時、熊が仁王立ちの体勢から、ドンと床に手を突いて四つん這いになった。鋭い目を光らせ、女生徒をじっと狙い定める。
「ひっ。こ、こっちに来ないでっ!!」
女生徒が叫びながら両手をかざす。
魔法で攻撃したのか、熊が一瞬怯むように見えたが――すぐに酷く逆上した。
熊は顎を上げ、辺り一帯がビリっと痺れる程の大声を上げる。
「カミヅキ様!私はもうこんな年なので魔法はほとんど使えないんです。どうかお力を……」
煩せぇよ。
どうせ物理的な怪我なんて、死ななきゃだいたいは治せるだろうが!
……まぁ、あの熊に引っかかれたり噛まれたりしたら、驚くほど痛いだろうけどな。
そう思っている最中、脳裏にあの時の女の……涙を浮かべた顔が過った。
その瞬間、胸が掴まれるような痛みが走り抜ける。
「なんだ……?」
突然、自分の体に違和感を覚え、開いた手を見る。
まさか……
俺の意志じゃなく、あの女生徒の元へ瞬間移動を発動しようとしている……?
「……んだよ……」
勝手に動こうとする自分の力を抑え込みながら、熊が空高く手を振り上げるのを見た。
そして、女生徒目掛けてその巨大な腕が勢いよく振り下ろされる。
「きゃああああ――――!!」
悲痛な叫びが耳を刺し、女生徒が咄嗟に頭を抱え小さくなる姿が目に入る。
「……関係ねぇ」
そう自分に言い聞かせるように呟き、瞬きをした次の瞬間――
視界が一気に変わった。
目の前に映るのは、凶暴な熊の恐ろしい牙。
その瞬間イラっとして舌打ちをした。
「うぜぇ……」
何がどうなってんだ!
俺は、こんな女なんてどうでもいいのに!
一瞬、この苛立ちを目の前の熊にぶつけてやろうかと考えたが、すぐにその気持ちを抑え込む。
なぜなら、法律上、食用の動物以外は殺せないからだ。
こんなに多くの目がある場所で、法を犯すのは得策じゃない。
奥歯を食いしばり、熊に手をかざして、小さくなる魔法を放つ。
俺に影を落としていた巨大な熊が、みるみる小さくなっていく。
俺の手の平サイズになった熊は、周りの人間をキョロキョロと見上げると、口を開けたままぬいぐるみのようにコテンと倒れた。
次の瞬間、静まっていたこの場が歓喜に包まれた。
「す……凄ーい!」
「かっちょいーい!!」
「ちょうど講師が居なくてどうしようかと思ってたの……綺麗なお兄ちゃんありがとう!!」
足元に寄って来るガキどもに言われる。
そんなガキどもを無視して女の方に目をやると……やっぱり予想的中だった。
腰を抜かしていた女は、やはりあの時の女だった。
ん?でも……なんか変だな。
目がおかしくなったような感覚に、目を擦る。でも何も変わらない。
なんだ?どうしてあいつだけが浮き上がって見えるんだ?
しかも、この異常な胸のザワつきは……




