召喚2
「あ、はいぃ……申し訳ございません」
「今後は無い」
指を離すとほっと胸をなでおろす教頭。
「しょ、承知致しました」
「念のため確認する。俺が大魔法使いという事は、お前の他に学園長しか知らない。合ってるか?」
「はい!!その通りでございます!私と学園長のみ知る事でございます!でも……どうしてそこまでして隠されるのでしょうか?」
俺は、質問の返事の代わりに目を見開いて見下ろす。
すると、教頭は頭を下げて「勝手な質問をしてしまい、申し訳ございません!」と謝ってくる。
過去を勝手に調べられるのも知られるのも、人の気も知らない奴に面白半分に根掘り葉掘り聞いてこられるのも、心底鬱陶しい。
『全世界に数人しか持てない凄い肩書なんだから、もっと自慢して歩いてもいい位だ』と言う奴もいる。
でも、皆知らない。
その行動はデメリットだらけと――
俺はあの日以来、この肩書は公にしないと心に誓った。
あの時の事を、少しでも思い出すだけで未だに虫唾が走る。
「胸くそ悪りぃな」
過去の自分を夢に見ただけでも目覚めが悪かったのに……
油でも飲んだかのようにムカムカしてくる胸元をグッと掴んで呟いた時――
「きゃぁぁぁぁーーーー!!!!」
と、廊下の窓の外から甲高い叫び声が俺の耳をさした。
その声につられて窓の外を見ると、この場所から見下ろせる、特殊な透明の壁で囲まれた魔法訓練場に自然と視線が向いた。
そして一目散に目に飛び込ん来たのは、全長3mはありそうな仁王立ちする大きな熊と、その前で腰を抜かしたように座り込んでいる女生徒だった。
「ふぅん。今はあんな実践的な魔法訓練までしてるのか?」
ここに来ても短時間しか滞在しない俺には、知らない事も多いらしい。
そう考えていると、隣の教頭が異様に目を細めながら訓練場を凝視していた。
「い……いえ、あんな授業はしていないはずです!しかもあれは……Fクラス!?どうして!」
教頭の言葉に釣られて目を凝らすと、壁際で震えて動けなくなっている生徒が目に入った。訓練にしては、緊迫感がありすぎる。
そして胸元には、Fクラスの証である黄色のバッヂのようなものが見える。
危険を伴う授業なのに、講師がどこにも見当たらない。
どうなってるんだ?
……まぁ、よく分からねぇけど面倒くさそうな事になってそうだな。
「まさか、あの熊はこの学園のセキュリティを突破して……!?いや、それともSクラスの生徒が召喚したんでしょうか!?」
「俺が知るかよ」
俺はくるりと背を向ける。
その時、腕を引かれて振り返ると、教頭が必死な顔で俺を見上げていた。
「待ってください!!お願いします、助けてください!原因は分かりかねますが、このままでは怪我人が出るのは確実です!カミヅキ様、どうか……!!」
慌てふためきながら、教頭は弱々しく頭を下げてきた。
「時間を見ろ。契約時間外だ」
「そんな……」
「助けたいのなら、自分でやるか他の講師に頼め」
そう言って再び背を向けると、変な魔力を感じて目を見開いた。
この魔力……っ!まさかっ!




