殺人鬼と呼ばれる子7
「ワシはかなりの年だ。正直、もういつ死ぬかも分からない。
でも、君はまだ7歳なのに身寄りが居ないし、ここを出ても行く当てもない。
じゃから、わしは君の事を懸念しているんじゃよ。
一緒に住む話は君が望むのならの話じゃ。強制はせん」
人と一緒に住むなんて、想像すらできなくて、自分がどうしたいのか全く分からない。
でも……
『家族みたいに』
その言葉が、心の奥底にじんわりと熱を持たせた。
家族。
周りは皆、当たり前みたいに家族がいる。
しょっちゅう手紙でやりとりをし、卒業するのを今か今かと待ち望まれ、卒業したらもれなく家族と暮らす事が決まっている。
何をしたわけでもないのに、ただ存在しているだけで愛されている。
その事が、本当は――
気が狂いそうな程に妬ましく思う。
今、僕が頷けば、偽りであっても家族のような相手が出来る。
その事は凄く嬉しい……はずなのに、あまりの事に戸惑ってしまう。
「まぁ、どうするのかは君の人生じゃ。君がしたいようにすればいい。そんな選択肢もあるって思ってもらえたら、それで十分じゃよ」
学園長は、僕をそっと解放するような口調で言った。
僕が全く返事をしないから、断ったと思ったんだろうか。
かといって、すぐに決められるような内容じゃない。
でも僕は……学園長と一緒に、住みたい……のかな?
家族が欲しいから……?
それってどうなんだろう。
手元のコップから視線を上げると、学園長と目が合う。
その目は驚くほど優しい。
「君は間もなく卒業じゃから、こうやってちゃんと話すのは最後になるかもしれん。じゃから老いぼれの話を1つ聞いてくれないか」
さっきはあんな言葉をくれたのに、簡単に出てきた『最後』という言葉に静かに心が乱される。
そんな僕の心の内を知らない学園長は、勝手に話を続ける。
「カミヅキくんは、皆が羨む程の魔力を持って生まれてきた。
物心つくより前から君を苦しめて来たのは、その膨大過ぎる魔力のせいなのは否定できない。
そのせいで今まで魔力を恨んだだろうし、今後も恨み憎しむかもしれない。
でも、覚えていてほしい。魔力は『悪』ではない。
魔力は君の力であり、君の『味方』だ。それを忘れないでくれ」
「魔力が……味方?」
そんな訳、あるわけないのに。
「そうじゃ。その恐ろしい程の力を何に使うかは、君が決めれる。
生まれてから今まで君を苦しめてきたであろうその魔力は、今後、君が幸せになれるように使って欲しいと思っておる。魔力は使い方次第では、必ず君の味方になる」
そう言うと、自分の髭を撫でる。
「魔力が多ければ多い程に長生きなのはカミヅキくんは知ってるな」
そう聞かれて静かに頷く。
「じゃから君はきっと……500年、いやもしかしたら1000年近く生きる可能性がある。じゃが……」
学園長は、いきなり手を大きく広げたと思うと、勢いよく手を合わせた。
その勢いからしてパンッと音がなるのかと思ったら、全く静かで、よく見ると手と手の間に数ミリの隙間があった。
「そんな長い人生の中で、君の人生はまだこんなけしか進んでおらん。じゃから、君が人生に挫折するにはあまりにも早い。
前にも言ったが、君は殺人鬼なんかじゃない。何も分かってない人間がそんな事を言ったとしても、耳を貸す必要は無い。
殺人鬼と言うのは、自分の意思で人を殺す人間の事を言うんじゃよ」
そう言われて、何故か喉が詰まった。
だからか再び口に含んだリンゴジュースが、上手く飲み込めずにいた。
「君は何も悪くない。ただ規格外の魔力を持って生まれて、1歳という異常な年齢で魔力が暴走しただけだ。周辺の人達を殺してしまったのは君の意思じゃない。君は、何も悪くないんじゃよ」
何度も『悪くない』と言われたからか、学園長が泣きそうな顔で笑うからか、息が詰まるほどに胸が苦しくなった。
「いつか、その魔力を持って生まれてきて良かったと思える人生を歩んで行ってくれ。それがワシの心の底からの願いじゃ」
その時、何故か思ってしまった。
学園長のその言葉が、まるで遺言みたいだと。




