殺人鬼と呼ばれる子5
いつの間にか総看守に纏っていた火は収まっていて、鉄格子の向こう側では看守達が総看守を治療しながらどこかに運び出している様子が映った。
なのに副看守は総看守に付き添う事なく、鎖に繋がれている僕を抱きしめ続けていた。
「こんな小さいのに、かわいそうに……。物心つくより前にこんな酷いレッテルを貼られて、本当に辛かったね……」
気付けば、副看守は何故か泣いていた。
何に泣いているのか全く分からない僕は、とても不思議な気持ちでいた。
頭を撫でられ、酷く心地いいのに何故か胸が苦しくて……
詰まりそうな胸に息まで詰まるのかと思った。
そして急な眠気が襲ってきて――僕は副看守の腕の中で眠りについた。
…………
……
……寒い……。
目が覚めると、僕は冷たい床の上で横になっていた。
まだ頭がハッキリしないうちに、どこからか話し声が飛び込んでくる。
「あの子供、あの魔道具で魔力を制御出来なかったらしいぜ」
「知ってるよ。だから手枷が3重なんだろ。でも3重なら大丈夫って保証あるのかな。本当に大丈夫か!?」
「さぁ~?こんな事初めてらしいから、あれで大丈夫なのかは誰も分からないらしいぜ」
その会話を聞いてから目の前にある自分の手元にピントを合わすと、3重の手枷と、掛けられているであろう薄手の布団が目に入った。
「しかも今回の事件で、あの子が塔から出所する日が2か月も延期になったらしいぞ」
「まじかよ」
「怖ぇよ。俺、絶対に総看守みたいになりたくねぇよ」
「馬鹿野郎!俺もだよ!あんな酷い火傷、見たことねぇ。しかも、治癒魔法でも完治は難しいらしいし、後遺症もかなり残る予想らしいぜ」
「さすが殺人鬼だよな。あんな小さいのに、もう既に何十人も殺してんだもんな」
「どうやって生きてきたらあんなのになるんだ」
「なのに不思議だよな」
「ん?」
「なんで副看守はあの子を庇うんだろう?」
「ああ、なんかいつも気にかけてるよなぁ。って……もう昨日付けで自主退職したから、元副看守だけどな」
「そうだったな」
「元副看守、優しかったのになぁ~。なんで退職したんだろ。惜しいよな」
「さぁな。昨日の総看守の姿に結構ショックを受けてたみたいけど……。あ、そういえばヤマダが言ってたな。『この仕事、自分に向いてない』って嘆いてたって」
「ふーん」
それからは、怯えながらも世話をする下っ端の看守たちによって、何の問題もなく塔での謹慎生活を終え――
僕は学園へ戻った。
…………
……
学園長室のドアを開けた途端、パーン!と大きな音が響き、カラフルな紙吹雪が舞い飛んだ。
「カミヅキ・ディオンくん。卒業確約おめでとう!」
驚きで固まった僕を前に、白髭白眉の学園長がニコニコ笑顔で立っている。
手元には、今まさに音を立てたばかりのクラッカーが握られていた。
その光景を見て、僕はようやく目の前のカラフルな紙吹雪の正体を理解した。
「さぁ入って入って。そこに掛けてくれたまえ」
機嫌よく言われて頭を小さく下げ、学園長が座った椅子の向かい側にある長椅子に腰を掛ける。