殺人鬼と呼ばれる子4
魔法だ……。僕の?
なんで魔法が使えているんだ?
状況が分からない僕は、呆然としながら手を向け続けた。
「ああぁ、あぁーー!!止めろぉぉ――――!!」
そう叫ぶ総看守を見て、少しでもいい気味だと思った僕は……
みんなが言う通り、本当に殺人鬼なのかもしれない。
なぜかその事が悲しくて、眉間に力が入った。
でも僕は、本当に誰も殺したくなかった。
顔も覚えてないけど、母さんを、父さんを……お兄ちゃんを殺したくなかった……
時々絵本に出て来る『家族』という形の中に、僕も入ってみたかった……
優しく、頭を撫でてほしかった。
強く、抱きしめてほしかった。
――愛されたかった。
「え!?なんで、魔法!?まさか……これ、カミヅキくんが!?」
そんな驚く声に目をやると、バインダー片手に駆けつけて来る副看守が映った。
「総看守!暴れないで!地面に転がって火を消して!……あぁ、どうしよう」
副看守の言葉は、火だるまになっている総看守の耳には全く入っていないよう。
「水場は遠いし……そこの君!ぼーっと突っ立ってないで!すぐ人を呼んで来て!あと水もありったけ持って来て!早く!!」
叫び声を聞きつけて来たと思われる看守たちに指示をした副看守は、開いたままの鉄格子の扉をくぐり抜けて僕の元に来た。
「カミヅキ君、今すぐ止めて!そうじゃないと、本当の殺人鬼になっちゃうよ!」
「何……言ってるの?僕はとっくに殺人鬼だよ」
当然のように言った僕は、なぜか予想外に怒鳴られる。
「違うでしょ!君は殺人鬼なんかじゃないよ!」
真っすぐ目を見て言われたその言葉に、心の奥に閉まった自分が顔を出した気がした。
「…………さ、殺人鬼だよ……。学園でも……殺人鬼のカミヅキって、いつも、みんな……」
副看守は、僕の目線に合わせるようにしゃがんだ。
「本当の殺人鬼なら、そんな風に泣かないよ!」
「泣か……ない……?えっ、あれ……」
泣いているつもりがなかった僕は、驚いて頬にそっと手を当てる。
すると、手のひらには生ぬるい水がたっぷりと付いていた。
ここ何年か、どれだけ辛いことがあっても涙なんて流さなくなっていた。
だから、自分が泣いているなんて信じられなくて、僕はその濡れた手のひらをただ見つめ、呆然とした。
「君は殺人鬼なんかじゃない。あれは……誰がどう言おうと不可抗力なんだよ。君は1ミリたりとも悪くない!」
副看守は、涙で濡れた手のひらから目が逸らせない僕に必死に語りかけながら、そっと僕の背中に手を回した。
その瞬間、酷く驚いた。
こんな温かさを感じたのは、生まれて初めてだったから。
それは、冷たく凍りついていた心をほんの少しだけ溶かしていくような、不思議な感覚だった。
物心ついてから初めて――僕は人に抱きしめられていた。