殺人鬼と呼ばれる子2
「いいや!お前は全然分かってない!お前の嫁、今妊娠中だったよな!?」
「……?あ、ああ……。それがなんだ?」
たじろぎながら返す副看守はバインダーを持つ手に力を入れる。
「もしもその嫁が、『不可抗力』で殺されたら……お前『不可抗力だから仕方ない』なんて言えんのか!?」
その言葉を聞いた副看守は、一瞬で固まり眉をひそめた。
そしてその視線がゆっくりと床に落とされていく。
「そ……それは……」
「やっと分かったか。そういう事だ。だからもう俺の行動に口出しすんな!」
副看守は下唇をぐっと噛んだ。
それからというもの、時々庇ってくれていた副看守は庇ってくれなくなり、申し訳なさそうに俯くだけの人間となった。
…………
……
上の方から唸り声が聞こえる塔生活も、間もなく1カ月が経とうとしている。
あと数日でここから出れる。
……でも、そんなのどうでもいい。
学園に戻ったからって、別にいい事なんて無い。
だって、僕はどこに行っても嫌われ者でしかないから――
僕は、生まれ持った魔力量が普通よりも飛び抜けて多かったらしく、1歳になった頃に魔力が暴走した。
その暴走のせいで、僕が住んでいた町は瓦礫と火の海になってしまったらしい。もちろん全く記憶には無い。
僕のせいで沢山の人達が苦しんで死んでいったそうだ。
そしてその中に総看守の家族や……顔も覚えていない僕の両親やお兄ちゃんも――
「僕なんか……生まれて来なければよかったのに……」
ふと汚れた手の平を見る。
魔力が憎い……
魔力さえ無ければ……こんなに苦しみながら生きることも無かったはずなのに……
再び膝を抱え、塔に入れられる直前の出来事を思い出す――
『カミヅキ。家族いねーってほんと?』
何歳も年上のクラスメイトが、渡り廊下で笑いながら聞いてくる。
『そうだけど』
そう答えると、なぜか笑われる。
『僕はいるよ!早く会いたいっていつも手紙で言われるんだ!卒業したら一緒に住みたいって楽しみにしてるんだって!羨ましいだろ~?』
そんな言葉に僕は無視をして歩くと、追いかけるようについて来る。
『なぁ、特別に手紙を見せてやろうか?』
『いい』
『なんでだよ!家族を知らないカミヅキに、普通の家族ってやつを教えてやろーと思ったのに!俺の優しさを無下にすんなよ!』
普通の家族……って、何?
それってそんなに必要?どうせ顔を見る事も出来ない相手だろ?
でも、そんなの知らないし、知りたいとも思わない。
『おい!』
無視して歩いていると、肩をグッと掴まれる。
『離して』
『なんだよ。本当は羨ましいくせに。強がんなよ!』
『別に羨ましくなんてない』
『嘘だな!……ああ、もしかして自分の家族を殺した殺人鬼だから、そんな当たり前の気持ちも分かんねぇのか!?』
そう言われた瞬間、心が冷えて凍っていく感覚がした。
いつもそうだ。
殺人鬼と呼ばれると、いつも、規則やモラルなんてどうでも良くなるような感覚になる。
『……るさい』
『はは、お前の母ちゃんも馬鹿だよなぁ、お前みたいな地味で面白くもない奴なんて産まなければよかったのに。そしたら今頃幸せに暮らして……うわっ!』
そして……親のことを悪く言われる度に、抑えきれない怒りが湧き上がる。
親の記憶なんて、何一つ無いのに。
それでも、なぜか親の存在がとても尊くて、その名を穢されるのだけはどうしても許せなかった。
『黙れ――――!!』
気付けば、僕の手から炎が放たれていた。
キーと鉄格子が開く音にハッと現実に引き戻される。
顔を上げると総看守が鉄格子のドアに手をかけて立っていた。
その時、瞬時に違和感を感じた。
それは、なぜか総看守1人だという事。
何度か看守同士が雑談している話を耳にしていたけど、何やらここの看守は1人で行動してはいけないというルールがあるらしい。理由は知らないけど。




