殺人鬼と呼ばれる子1
「ディオン……
カミヅキ・ディオン……」
その声に重い頭を上げると、両手足にかけられた手錠と足枷がジャラリと音を立てた。
「またお前か」
薄暗い塔の部屋の鉄格子越しに見えたのは、この塔の総看守。
「こんなに早くまた会えるなんてな……。7歳で3回目の塔入りか。さすが生まれながらにしての殺人鬼だな」
僕は憎悪まじりの目で見下ろす総看守から目を伏せる。
「おい、止めろ。総看守はいつもこの子に突っかかりすぎだよ」
止めに入ったのは、総看守の影にいた、バインダー片手の副看守。
「まだ子供なのに、もう少し優しくしてやれないのか?こんな所にこんな幼い子供が入って来ただけでもかわいそうなのに」
副看守の言葉に、さらに目を吊り上げた総看守は怒鳴るように言う。
「ハァ!?かわいそう!?こいつが!?本気で言ってんのかよ!」
「本気だよ。普通ならまだ小学生なりたての年だろ。なのにこんな所に入れられて……」
「前もお前はそんなくだらねぇ理由でこいつを庇ってたな。殺人鬼に年なんて関係ねぇよ!」
「まず、この子は殺人鬼じゃないから!」
「お前……まさか、こいつが何人殺したのか知らねぇのか?」
その言葉に、副看守はギュッと口を閉じた。
「んだよ。知っててその発言かよ」
総看守は呆れたようにため息をもらし、副看守に怒りの目を向けて続ける。
「もうこの際だから言っておく!俺はこいつに心底恨みがあるんだよ!法に触れなければ今すぐにでも八つ裂きにしたい位のな!」
総看守が鉄格子を蹴り上げて、ガンという鉄の音が頭に響いた。
「おい、クソガキ」
恐怖心を抱きながら、恐る恐る総看守に目をやる。
「お前、小せぇ事で塔に来るんじゃなくて、殺人でもしてから来いよ。んだよ、友人と魔法でケンカって……馬鹿か!下層じゃなく、上層階入りなら、てめぇをいくらでも泣き叫ばさせる事が出来たのに!!」
鉄格子の鍵を開けた総看守を引き止める副看守。
「総看守!!」
「離せ!」
総看守は副看守の腕を振りほどいて、ズカズカと鉄格子の中に入って来る。
そんな様子に、僕はお山座りをしていた足をグッ引き寄せた。
「総看守。まさか、何かするつもりじゃ!?そんな事したら仕事をクビになるだけじゃ済まないのは分かって……」
慌てた様子で話す副看守に、ダルそうに口を開く総看守。
「んなわけねぇだろ。この階は体罰禁止。そんな事くらい分かってる。だからムカついてんだろ!!」
そう言いながら総看守は、憎しみを込めた目で僕の顔を見下ろした。
「法に感謝するんだな」
吐き捨てるように言うと、僕の顔に唾を吐き捨てた。
「うっ」
「おい!酷い事するんじゃない!」
そう言って駆け付けた副看守は、ポケットから出したハンカチで顔を拭いた。
「何も知らねぇやつは口出しすんな!」
「……知ってるよ」
副看守の言葉に、総看守は目を大きくする。
「……へぇ。誰かに聞いたのか」
「そうだよ」
「なら、分かるだろ?邪魔すんな!」
「分かる……。でも、あれはどう考えても不可抗力だろ?仕方なかったじゃないか!」
「はぁ!?不可抗力だ!?お前、やっぱ全然分かってねぇな!!」
「分かるよ!この子に、その……お前の家族が殺されて……恨みたくなる気持ちも……」