月夜5
「何って、お前が隠すから暴くんだよ。この辺りが怪しいし……」
「暴くって……」
「叫びたければ叫べばいい。どうせもう誰にも聞こえねぇよ」
まさか、またチート魔法!?
「やだ!やめてよっ」
手で肩を押し、足をバタつかせる。
「暴れんな。それ以上抵抗するんだったら縛り上げるからな」
「しっ、縛っ……!?やだっ!」
そうこうしている間に、シャツの中の手がさらに上へと滑り上がる。
「やめてって……言ってるでしょ!!」
そう叫んだ時には、私は奴の頬を思い切り打っていた。
部屋に響いた乾いた音はほんの一瞬で、今では驚くほどに静けさを取り戻している。
私は、叩いた格好のまま微動だに出来なくなっていた。
叩いた衝動で横を向いたまま驚いた表情をしていた奴が、静かに顔をこちらに戻す。
その目は、殺意を感じるほどの剣幕で私を睨み見下ろした。
今日二度目の、THE ENDの文字が頭に浮かび上がる。
でも、私が何をしたって言うのよ……
こんな事されて、大人しくしてろっていうの?
「もう……やだ……。なんなのよ……。あんたなんか……大っ嫌い!」
上ずった自分の声が聞こえて、自分は泣いてるんだと気づいた。
生ぬるい涙がこめかみを伝って流れ落ちる感覚がして、目元をパジャマの袖で覆い隠した。
その時、耳に舌打ちが落ちてきた。
「……んだよ」
再びベッドの軋む音が耳に飛び込んで来る。
沈んでいたベッドがふわりと戻った感覚がして、覆っていた手をずらすと、月明かりを浴びながら出窓に片足を掛けている奴が映った。
叩いたんだから即座に殺されてもおかしくないはずなのに、どうして……
「誤解すんな。てめぇのその貧相な体なんかに興味ねぇよ」
「ひ……、貧相ですって!?」
そう叫んだ時、奴の表情に違和感を覚えた。
目くじらを立ててはいるけど、その顔は不思議と困っているようにも見えた。
「今日は出直してやる。でも、次は絶対吐かすからな」
一度窓側に顔を向けたると、忘れ物をしたかのように振り返る。
「あと、俺は『あんた』じゃなくて『ディオン』だ」
何かと思ったら、奴はそんなどうでもいい事を言う。
ディオンという名の奴にキョトンと目を向けた瞬間、目にも止まらぬ速さで出窓から飛び去っていった。
その勢いで、出窓の白いカーテンがふわりと揺れる。
「速っ……」
ディオンという奴、なぜか動揺していたように見えた。
あんな血も涙もなさそうな奴が、動揺なんて……なんで?
思い返して原因を探ってみたけれど、どうしてもタイミング的に『私が泣いていたから』という考えに行き着く。
でも、さすがにそんな理由な訳がなくて、首を捻るしか無かった。
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