月夜3
頭をかいて深いため息をついた男は言う。
「面倒だから逃げんなよ。別に、何もしねぇよ」
はぁーー!?そんな言葉、信じられるわけないに決まってるでしょ!?
何もしないなら何しに来たっていうの!?
まさか、平和にお話でもしに来たわけ!?こんな夜遅くに女子寮に忍び込んで!?
声が出せない私は、心の中で盛大な文句を言ってのける。
「だからさっさと俺の質問に答えろ。お前、なんでその魔力を隠してんだ」
そういえば私が学園長を押し付ける前に、そんなような事を聞いて来てたっけ?
まさか、それだけの為に……?
それさえ答えれば帰るの?
逃げ場がない私は観念し、出窓にかけた足を静かに下ろした。
『魔力なんて隠してないわよ』
そう口にした瞬間、まだ声が出せないという事に気付いた。
すると奴も忘れていたのか、「あ」と短い声を漏らした後、私の顔に手を伸ばして来る。
警戒心でいっぱいの私は、思わず顔を大きく背けた。
「おい、魔法を解くだけだ」
そう言うと、私の顔を掴んで自分の方に向けた。
再び近づく手に、私は恐怖で目をギュッと閉じる。
すると、長くて綺麗な指が私の唇にそっと触れた。
その瞬間、心臓が飛び跳ねて「ひぇぇ……」と、情けない声が出てしまった。
恥ずかしさで顔が熱くなり、穴があったら入りたい気持ちになる。
そんな私に、奴は怪訝な顔で追い打ちをかけてくる。
「なんだ、その変な声は。キモッ」
「うっ……」
悔しい!けど、言い返す言葉が出てこない自分に腹が立つ。
唇に触れた指先は顎に滑り、グイっと顔を持ち上げる。
「もう話せるだろ。だからさっさと言え。何を企んでるのか」
頭に巻いていたタオルがバサリと床に落ち、濡れている髪が私の肩に落ちた。
「言っとくけど、正直に答えた方が身のためだぞ。嘘をついて、この俺から逃げられるなんて思うな」
低く、威圧感のある声が私の鼓膜を揺らす。
心臓がさらに速くなり、鼓動が全身に響く。
きっとこれは、命の危機を感じているせいだと、そう自分に言い聞かせた。
「私は……何も企んで無いし、何も隠してもいないわ!」
何を勘違いしているのか分からないけど、隠す程の魔力があるのなら、未だにFクラスなんてわけない。
「はい、答えたわよ!だから早く帰って!そうじゃないと、あんたが勝手に女子寮に入って来た事も、私を突き落とした事も、ぜーんぶ管理事務員に言い付けるから!」
本当は名前さえ知らないけど。
「……何も隠してない?そんな言葉、信じるとでも思ってんのか?」
質問に答えたのに、奴は帰るどころかイラついた顔で口を歪めた。
「本当の事言わねぇつもりなんだったら、魔法を使ってでも無理やり吐かせてやる」
そう言うと、私の口に長い指を向けた。
「や、やめてよ!」
よく分からないけど怖い!
私は咄嗟に両手で口元を隠した。
すると、奴はとんでもない事を言う。
「じゃあ言え。吐かせる魔法は後々面倒だからあまり使いたくねぇんだよ」
「!?」
「その口の堅さからすると……どっかの国のスパイってところか?」
「じゃあ言え。吐かせる魔法は後々面倒だからあまり使いたくねぇんだよ」
「!?」
「その口の堅さからすると……どっかの国のスパイってところか?」
「ス、スパイ!?何を訳の分からないことを……っ!本当に私は……」
私は口元を隠したまま、勢いよく後ずさった。
すると、膝裏にベッドが当たり、バランスを崩して膝の力が抜け、そのままベッドの上に尻もちをついた。
「わっ……!」
でも、奴は止まることを知らずに近付いてくる。
「ちょっと……!」
私は奴を止めようと手を向け、もう片方は後ろに突いた。
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