月夜1
この魔法学園は、私物を持ち入る事を固く禁止している。
なのに私はこの年になっても、両親がくれたこのお守りのネックレスを身につけ続けている。
なんで未だにバレていないかと言うと、私は露天風呂付きの大浴場やプールも使っていないし、着替えが必要な時はトイレでの着替えを徹底しているからだ。
24時間肌身離さず付け続けているのは、お父さんの言う『肌身離さず』という約束を守っているわけじゃない。私は変な神様なんて崇めてないし。
本当は、一時的に外してどこか安全な場所に置いておけばいいだけの話だとも分かっている。
でもそうしないのは、万が一でも失くしたりでもしたら一生後悔するから。
だって……コレの代わりなんて、どこにも無いから。
今日も例外なく、部屋についている簡易的なユニットバスのシャワーで体の汚れを流している。
シャワーの蛇口をひねり、キュッと音を立てて水を止めた。
「あの男……2年間は絶対に学園に居なかったはずなのに……。どうして……」
持病等で授業を長期間休むこともあるって聞いた事があるけど、流石に2年間なんて長すぎる。しかも普通に元気そうだったし。
それに本当に今更だけど、私が5歳の時も居たよね?
しかも、その後は一度も見てない気がする。
11年前と2年前に居て……今日戻ってきた??
生徒でもないのに私服だったし……
まさか、あいつは国の関係者?
……あれ?でも、おかしい。
あの男、私が5歳の時から風貌が全く同じじゃない?
……いやいや、さすがにそんなわけ……ないよね?そんなのありえないし。
記憶違い……なんだろうか?
今日は色々ありすぎて、頭が疲れてるのかも知れない。
そういえば落下中に感じた、あの溢れるような魔力はなんだったんだろう?
あれから、ずっと体がいつもと違うような……
しかもあの時、何か変な音がしたのよね。
確か胸元あたりから……
胸元に視線を落とすと、すぐに気づいた。
「……!」
お守りの石に、小さなヒビが入っているという事が――
「…………え?」
慌てて石を手に取り、シャワー室の丸い照明にかざして目を凝らす。
すると、筋のような小さなヒビがはっきりと見えて、見間違いでない事を知った。
「なんで!?」
頭に手を当て、必死に原因を探す。
今日、あの屋根から落下しかけた時に、どこかにぶつけた?
……違う!
地面にぶつかる直前に奴が私を浮かしたみたいだったから、それは無い!
しかも、いつもみたいにシャツの中に入れていたし、外には出ていなかった。
服が無傷でネックレスの石だけにヒビが入る状況なんて、考えられない。
じゃあ……何?劣化?
このヒビが原因で本格的に割れたりしないよね?
「クシュン!」
どうやら、考えごとをしている間に体が冷えてきていたようだ。
急いで学園支給のショートパンツと長袖シャツのパジャマに着替え、頭にタオルを巻いてシャワー室から出る。
「遅せぇシャワーだな」
誰もいないはずの女子寮の自分の部屋に、男性の野太い声が響いた。
驚いて声元を探すと、月明りが照らすこの部屋の出窓に、立てた膝を肘置きにして座る――
あのヤバい男が居た。
そんな光景を見た瞬間、息が止まった。
「よぉ」
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