学園最弱の存在 Fクラス-16歳-4
「違うわ!これは……」
さっき手を上げられそうになったからで……と言いかけた私は、慌てて口を噤んだ。
危ない危ない。
最も弱みを見せてはいけない相手に、弱みを晒すところだった。
「そんな話はどーでもいいんだよ。それよりさっさと言えよ」
「別に、言う事なんてないわよ。だから早く戻して!」
「あるだろ」
「無いわよ!」
奴は私の態度に大きなため息をつき、呆れたように言った。
「お礼だろ。お・れ・い」
その言葉に驚きのあまり全身に衝撃が走った。
「……は?お礼?って……なんの?」
あんたが私に謝る事なら山のようにあるだろうけど、私があんたにお礼を言う事なんてないはずだわ。
「さっき、《《この俺》》が、《《お前ごとき》》を助けてやっただろうが」
顎を上げて言われた言葉に、ポカンと口が開いてしまう。
……もしかして、さっき打たれそうになった時の事?
この人、私の首絞めておいて、あんな事で恩を売りつける気なの!?
前も感じたけど、自分勝手で人の事なんてこれっぽっちも考えていなさそうなこの人を見ると、私を殺したあの黒髪の奴が脳裏に浮かんでくる。
そのせいで髪色も髪型も正反対なのに、記憶に残る奴の声と、どこか似ている気さえしてくる。
嫌い。
……大っ嫌い!
この俺がって、何!?どの俺なのよ!?何様!?
「別に、あれくらい私一人で大丈夫だったわ!それにあんたなんかに助けられたくなかった!」
「なんだ、その口の利き方は」
酷く低い声が落ちた瞬間、しまったという文字が浮かんだ。
人気も無く危険な場所に連れて来られているというのに、さすがに言いすぎたかもしれない。そんな不安が胸をよぎる。
奴はポケットに手を突っ込みながら、音もなく私の前に降り立った。
風がサラリと前髪を揺らすと、静かに首を傾げて私を覗き込む。
「俺の忠告、忘れたのか?」
「え……?」
冷酷さを感じる鋭い目に、冷や汗がどっと噴き出た。
……怖い。
今すぐにでも距離をあけたいという気持ちとは裏腹に、こんな危険な斜面のせいで一歩も引けない。しかも奴の方が高い位置だし。
「ただ忘れたのか……それとも、俺に殺されてぇのか……」
「えっ!?私死にたいなんて思ってな……」
奴は、私が話している最中に手を向けて来たと思うと、私の肩をトンと押した。
その瞬間から私の視界は、奴からゆっくりと空に上がって行く。
「え……」
私の声と重なって、「どーでもいい」と言う彼の声が聞こえた。
気付けば壁を掴んでいた手が離れていた。
その事に気付いて掴み直そうとした手はもう壁に届かず、スカスカと空気を掴んだ。
今度は慌てて後ろに一歩踏み出す。
でも、急な斜面のせいで重力に負けた足がまた一歩、そしてまた一歩と行きたい方向と反対に進んでしまう。
「やっ……」
どうにかこの勢いを止めれないかと、足の裏で踏ん張るってみるけど、この勢いは全く止めらない。
そうこうしてるうちに、奴が遠くなっていく。
そしてついに、足裏にあった屋根の感覚が無くなった。
「あっ……」
次の瞬間、奴が静かに高みの見物で私を見下ろしている様子が映った。
……最低……さいっあくの奴だわ!!
「ひ……人でなし――!!」
そう叫んだあとの動きは、なぜか驚くほどスローモーションのように見えた。
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