学園最弱の存在 Fクラス-16歳-3
私の言葉に、奴は片眉を釣り上げる。
「は?卒業?」
卒業したんじゃない?
でもそうか。卒業してたら今ここに居ないもんね。
2年もの間、私はずっとこいつに警戒しながら生活していた。
上級クラス棟や男子寮の近くを通る時なんかは特に。
でも、1度も目にする事はなかったのに……どうして……
ええい!もう、なんだっていい!
理由は分からないけど、この男はまだ学園にいたんだ。
なら、私が取る行動は1つしか無い!
それは――こいつと出来るだけ接点を持たないことだ!
「な……なんでもない」
触らぬ神に祟りなし!
いや、神じゃなくて悪魔の間違いだったわ。
そんな事を考えながら踵を返すと、ふと手が小刻みに震えている事に気付いた。両手を重ねてみる。指先が冷たい。
奴のせい?
……いや、違う。きっと女の人に手を上げられたせいだ。
前世の記憶のせいで、未だに女の人に手を上げられるのは全然駄目みたいだ。
こんなんで復讐なんて出来るのかな?犯人は女なのに。
心の中でため息をついて足を一歩前に出すと、「どこ行くんだよ」と、引き留められる。
私は、迷いながらも背を向けたまま足を止めた。
一瞬、無視してこの場から消えてやろうかと考えたけど、相手は瞬間移動の出来るサイコパス的思考の人間だ。
追いかけられたら逃げ切れるわけがない。
仕方なく、顔だけを振り返る。
「どこって……次の教室に行くの。さっきチャイムが鳴ったから」
「ふぅん……ってお前、その前に言う事あるだろ」
「……えっ?言う事……?」
何のことを言っているのか分からず、頭を巡らせてみる。
でも、何も思いつかずに首を傾げる。
正直、もうどうでもいいから早く行かせてほしい。
「も、もう行くから!」
逃げ出したい気持ちがいっぱいで、再び足を前に出すと、肩を掴まれる感覚が走った。
「おい。逃げんのか」
「ち……違う!急いでるの!」
「それを『逃げる』って言うんだよ」
そう言われた次の瞬間――
「……っ!?」
強い風が肌を打ちつけた。
私の瞳に映り込んだのは、校舎の屋根の斜面の景色。
状況が全く飲み込めず、私は思わず空に向かって叫んだ。
「え、えぇぇーーーー!!!?」
ここは、高さで言うと5、6階くらいに相当するだろう。
斜面はかなり急で、万が一つまずいたりでもしたら、転び落ちて死んでしまうだろう。
「なななな、なんで……っ」
叫びながらすぐ横にあった時計台の壁に抱きつくと、クスクスと笑う声が聞こえた。
「これで逃げれねぇだろ。ってか、ガタガタ震えてんじゃん」
壁にしがみつきながら声のする方に振り返ると、白銀男があぐらをかいて宙に浮いていた。
「……っ!」
浮遊魔法は魔法使いの中でも一部の人しか使えない。
さらに、自分自身を浮かせることができるのは、その中でもほんの一握りだ。
瞬間移動に浮遊魔法、後は人を勝手に動かす能力があるなんて……一体この人は何者!?
「お前って威勢がいいのは最初だけだな。この高さ程度で怖いなんてな」