学園最弱の存在 Fクラス-16歳-1
16歳が一番多いクラスはDからCクラス辺りだと言われている。
それなのに、16歳の私は、平均より2、3クラスも下のFクラスだ。
学園始まって以来の酷い成績を納め続けている私は、このままだと学園から一歩も出ることなく、生涯を終える可能性があるらしい。
そんなのは絶対嫌なのに、低すぎる魔力のせいで、これ以上努力してもどうにもならない気がする。
2年前、学園のアイドル的存在である、サオトメ・ロレンツォことローレンが教えてくれた『魔書資料室』は、発見した翌日から忽然と姿を消した。
あの時は絶対にあったはずの階段は、夜になっても二度と現れることはなかった。
もしかしたら、生徒に発見されたことで、魔法でどこかに移動させられたのかもしれない。
でも、それはもう私が知れる事ではないのだろう。
今となっては、どうしてあの時ドアを開けなかったのか、と後悔ばかりしてしまう。
ということで、もうここから出る方法は――もう、瞬間移動くらいしか思いつかない。
「あの子よ。また試験に落ちたらしいわよ」
「えー、信じらんなーい。あの歳でまだFクラスとか超恥ずかし~い!」
10歳に満たないクラスメイトと教室移動をしている最中に、またもや聞きたくない会話が耳に入ってきた。
「やっぱり、色恋にうつつばっか抜かしてるからじゃないの~?」
「だよねぇ~ウザッ」
内容からして、またローレンと仲が良いことへの嫉妬だろう。
こういうのは、もう日常茶飯事。
その結果、全校生徒に注意が呼びかけられたものの、誰が主犯だったのかは未だに分からない。
エプロンを破かれたり、物を隠されたりする嫌がらせは無くなったけど、今では陰口だけになっている。
普段なら、こんな陰口なんて気にせずやり過ごせるはずなのに……
今日はなんだかイライラしてしまう。
きっと、女の子の日だからだろう。
「サオトメ様もあんな、程度もクラスも低い女のどこがいいのかしら」
「ごめん。先に行ってて」
クラスメイトにそう言うと、私はズンズンと足音を立てながら陰口を言う2人組の元へ向かった。
2人は、私が近づいていることに気付いていなかったようで、目の前に仁王立ちする私を見た瞬間、驚いた顔をした。
「うわ!ビックリした!」
この2人、前にも見覚えがある。
確か……エプロンを破られた時、調理場にいた上級クラス生だ。
それに、過去にわざと足を引っかけてきたのも、こいつらだ。
過去の出来事が一気に頭に浮かび、怒りが更にこみ上げる。私は勢いよく言い放った。
「私、色恋にうつつなんて抜かしてないわ!勝手な事言わないで!」
私の言葉に、髪の長い方が腰に手を当て、目を細めた。
「はぁ?そんな事言うためにわざわざ来たわけ?」
「わざわざ聞こえよがしに話していたのは、あなた達でしょ!?」
「その歳で下級クラスのくせして、なーに私たちにタメ口きいてんの?謝りなさいよ!」
「そうよ!謝れ!」
短い髪の方が私の胸元のリボンを指でトンと小突く。
「どうして謝らないといけないの?この学園では下級生が上級生にタメ口をきいちゃ駄目だってルールは無かったはずだけど?」
どっちも年は私と同じか、年下でしょ。
「ハッ。さすが万年Fクラスの馬鹿。あんたより出来る私たちを敬うのは当然の事じゃないの?そんなことも分からないなんて、どれだけ馬鹿なの?Iクラスからやり直したらぁ?」
胸元に手を添えて、いかにも正論を言っているかのような顔を向けてくる。
「確かに私は魔力は少ない。それは認める。けど、それ以外であなた達に劣っている部分なんて、一つも無いわ!」
「は?出来損ないのクセして何偉そうに!」
「そうだよ!てめぇ調子乗ってんじゃねぇよ!さっさとサオトメ様の前から消えろ!サオトメ様だって迷惑してんだろ!」
「別に迷惑なんてしてないわ。現にローレンは、いつも私に笑顔を向けてくれてるもの」
きっぱりと言い切った私の言葉に、2人はグッと歯を噛みしめる。
「ウッザー」
「何こいつ、マジでムカつく!サオトメ様と釣り合ってるとでも思ってんのかよ!ちょっと顔が良いからって調子乗りやがって!」
「調子に乗ってなんかない」
そう言った瞬間、胸元をドンと押され、後ずさった。
「それが調子乗ってるってんだよ!分かんねぇのか!?落ちこぼれのクセに偉そうにしてんじゃねぇよ!『サオトメ様と肩を並べて申し訳ありませんでした』って土下座しろよ!」
もう一人も肩をドンと強く押してくる。
私はフラつきながらも、倒れないように後ろ足で地面を踏みしめる。




