最後のピース5
「シエルを……お前を、愛している」
ディオンの切なげな瞳に、吸い込まれそうになる。
「……っ!!」
今の話、そしてこの目。
嘘だとは思えない。
それほどに、私の事を……
私は眉を寄せ、目を伏せた。
「……一緒に、お前の好きな海の見える場所で、静かに暮らしたい……。
いつか家族を持ちたいって言ってたお前と、また、あの毛の長い猫でも出してさ……」
そう言われた瞬間、目を大きくした。
ずっと感じていた違和感の正体が、やっとハッキリした気がした。
……この人が見てるのは、私なんかじゃない。
この人が見てるのは――
私の後ろにある……『この人が愛したシエル』。
この人の世界にいた「シエル」が死んで、再び会うことを求め、時空まで超えてここまで来た……?
もしそうだとすると、酷い同情心と哀れみが湧いて来る。
そして、胸が痛くて、助けてあげたい気持ちでいっぱいになる。
確かに、海が好きなのも、玉子サンドが好きなのも、「シエル」と同じ。
でも……
「それは私じゃない。私は、そんな事言ってない!」
そう言うと、一瞬だけ目を大きくした。
「ああ……。そうだな。確かに……まだ言ってねぇ」
「やめてよ!私がいつか言うみたいな言い方!私は私よ!」
胸元に手を置いて言う。
「何言ってんだ。シエルはシエルだ」
「それに私は……勝手に私の命を奪い、人さらいみたいな事をするディオンなんか、絶対好きにならない!私は……この世界のディオンが好きなの!!」
そう叫ぶと、ディオンは勢いよく背後の壁を殴った。
酷い音が響いて恐る恐る彼の手を見ると、そこには血が滲んでいた。
ディオンの目を見ると、怒りとも悲しみともつかない表情が浮かんでいて、その顔を前に再び言葉を失った。
「うるせぇよ!!」
悲痛な叫びに、胸が張り裂けそうになる。
「何が違うんだよ……!!俺は俺だろうが!シエルはシエルだろうが!」
気を確かにしないと……ディオンの感情に持っていかれそうになる。
「ち……違う。……全然違う。……確かに、似た所も多い。でも違う!笑い方とか、私へのからかい方とか……何よりこっちの世界のディオンは、もっと自信に満ち溢れていたわ!」
「それは、お前を一度も失ってねぇからだ!」
叫ばれ、ビクっとなる。
「俺だって最初からこんな人間じゃなかった!こっちの世界の俺だって、お前を失ったら俺みたいになるはずだ!」
「……っ」
そう言われて、何が正解なのか分からなくなった。
目の前のディオンは、私が好きなディオンの未来の姿……なの?
「俺は、シエルが居ないと……駄目なんだ……もう、シエル無しの時間なんて一秒たりとも耐えられない……」
絞り出すように言ったディオンの顔が、泣きそうなほど苦しげで、見ているだけで胸がギュッと締めつけられた私は、無意識のうちにディオンの元へ数歩近づいていた。
「だから、違うよ。あなたが好きなのは……ひゃっ!」
話している最中に勢いよく手を引かれ、気付けばディオンの腕の中に居た。




