小さな違和感と初めての愛情2
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「あわあわぁ~ジャー。気持ちいでしゅねぇ~」
お母さんの膝の上で頭を流し終わると、曇った鏡に自分の顔だけがぴょこんと映る。
前から思っていたけど、私、とんでもなく可愛いくない!?
目おっきいし、キラキラしてる!
黒髪黒目で、決して碧眼金髪ではないけど、これは美少女ならぬ美幼女と呼ぶべき顔だわ。
「あーうー」
鏡に手を伸ばすと「自分の姿、気になりまちゅかぁ?」と目を糸みたいにして笑いかけてくる。
相変わらず両親は優しく、いつも笑顔だ。
毎日丁寧に洗濯された清潔で、とてもいい匂いの服を着せてくれる日々。
私が泣いても怒ったりしない。
すっごく幸せ。
復讐なんてしないで、このままずっと両親の近くにいたいって、思ってしまう事は少なくは無い。
こんな素敵なお家に生まれ変わるんだったら、前世の記憶なんて無かったらよかった。
そしたら、こんなに悩む事も、罪悪感を持つ事もなく、ただ幸せに生きれたのに。
でも……、
前世の記憶があるから復讐できるんだ!
まだ調べれないから分からないけど、もしまだ奴が法に罰せられずにいるのなら……罰せれるのは私だけかもしれない!
私の人生を勝手に終わらせておきながら、なんの罰もなくて過ごされているのだけは絶対に許せない!
「どうして怒ってるの?泡が目に入っちゃったのかな?」
そう言って濡れたガーゼで目元をそっと拭いてくるお母さんに泣きそうになって、ぐっと涙をこらえた。
早く成長したい。
でも、やっぱり待ってほしい。
そんな葛藤の日々を過ごしていたある日、この家のおかしな点に気付いてしまった。
そのおかしな点というのは――
家にスマホや電話、テレビなど、外から入る情報が一切無い事。
そして最後のおかしな点というのは……いや、これはもう『おかしな点』というよりも『異様』と言った方がいいのかもしれない。
それは――
私だけが家から一歩も出させてもらえない、という事だ。
もちろん話せるようになってからは、外に出たいと何度も言った。
でも、その度に適当にはぐらかされてしまうだけで叶わなかった。
しかもこの家の窓からは、外の景色が一切見えない。
窓そのものはある。
でも窓を開けた先は別の建物の壁か、謎の黒い板が貼られて使われていない窓だけ。
なんだか、外の世界と遮断されているようだと感じてしまうのは、考えすぎなんだろうか?
今思えば、検診とか予防接種とかも受けた事もない。
お母さんやお父さんの事を悪く思いたくないけど、時々『監禁』や『軟禁』という文字がふと頭を過ってしまう。
いや、きっとそんなのは全部気のせいに決まってる!
だって、今世の両親は本当に優しいし、私を本当に愛してくれているんだから!
だからきっと、幼稚園に通うようになれば、『あの頃はそんな不安もあったな』って笑い話になるはず……
そう思いながら薄暗い部屋で月日を重ね、ついに私は、外の世界を一度も目にする事もなく、4歳の誕生日を迎えてしまった。