時を超えた狂愛の檻
…………
……
「ディオン……」
照れたように俯くシエル。
「ディオン……大好き」
はにかんで頬を染めるシエル。
「実は、私……、前世を覚えているの。前世の両親は私に見向きなんてしない人で……」
俺に全てを知って欲しいと、突然そのような事を打ち明けてきたシエルは、頬に沢山の涙を流した。
「早く卒業して、ディオンと一緒に暮らしたい……で、お庭に沢山の可愛いお花を育てるの」
屋上で手を広げて笑顔で夢を語るシエル。
「あと半年だ、って?確かに、このままいけば後半年で卒業出来ると思うけど……でも、その半年が待てないのよ!」
口を膨らませて拗ねるシエル。
「え?海?い……行きたい!そうだよね!学生最後の連休だもんね」
手を合わせて目を輝かせるシエル。
「うわぁ~。綺麗!見て見て~魚が泳いでる!凄い!あそこに亀もいる!!ちょっと、ディオン!笑ってないで、ちゃんと見てるの?」
シエルは海を指さしてはしゃぎながら、シエルばかりを見つめる俺に気づくと、少し照れくさそうに口を尖らせた。
どれも、尊いほどにかけがえのない瞬間だ……
あの時、あんな事が起こらなければ……
俺たちは、今頃……
「ディオン……もし、私が……。ううん……なんでもない……」
眉を寄せ、何か言いたげなシエルは俯き口ごもった。
何か、言いたい事があるんだとすぐに分かったが、俺は無理に聞き出さなかった。
なぜなら、俺たちには、これから十分すぎるほどの未来が約束されているからだ。
だから、シエルが言いにくいことがあるのなら、いつか自然に話してくれる時を待てばいいと思ったんだ。
でも……これが大きな間違いだった。
翌週――
突然、シエルから1枚の紙を渡された。
「なんだ?この紙切れは」
「これで謎解きをしてほしいの」
「はぁ?なんで」
話を聞くと、シエルはこの紙切れを元に、世界中を回って暗号を解くゲームをしてほしいとお願いしてきた。
「ダリぃ。世界中なんて。どれだけ広いと思ってんだ」
俺はそう言って紙を突き返した。
彼女であるシエルの願いは叶えてやりたいけど……、これはあまりにも面倒だ。
「お願い!この為に頑張って世界中に仕掛けを作ったの!」
「は?お前、まさか……」
俺は口を歪めてシエルの顔に手を伸ばす。そして頬を指で挟んた。
「おいシエル。お前、俺の知らない間に勝手に学園を出たな?」
「ご、ごめんなさい」
「俺はこんなお遊びをさせる為に魔力が見えにくくなる魔法と、瞬間移動を教えたんじゃねぇぞ」
「分かってるよ。もう勝手に出ないから離してっ」
その言葉を聞いて、すっと手を離してため息をつく。
シエルは手を後ろで組んで、上目遣いで伺うように覗き込んだ。
「それより、やってくれるよね?」
「嫌だ」
「ええっ!?ケチ!凄く時間かかったのに!」
「知った事か!お前が勝手にやったんだろ」
そう言うと、シエルはパンパンに口を膨らませた。
「お願いっ」
手を合わされて一瞬戸惑った俺は、断固なる意志で「やらねぇ」と言って押してくる紙を再び突き返した。
「ねぇ。一生のお願いだからっ」
「一生は死ぬほど長げぇんだよ。もっと大事な時に取っとけ」
俺の言葉を聞いたシエルは、一瞬ビクっと震えて、瞳から光が消えたように見えた。
でも、すぐにいつも通りのシエルに戻り、それが見間違いだったんだと思った。
「い、今が大事なの!」
「第一、これを解いたら何があるんだよ」
「それは……解いてからの秘密だよっ!言ったら面白くないじゃん」
「まぁ……、そうだろうけど」
「本当に駄目なの?」
シエルはそう言って、真剣な眼差しを俺に向けてきた。
その時、このお願いはただのお願いじゃなくて、何かもっと深い意図があるのかもしれないと思った。
悲し気な目で見つめられた、俺はついに観念した。
「……分かった。やりゃーいいんだろ」
「やった!」
バンザイをして喜ぶシエルから魔法で紙をピッと取り上げ、シワを綺麗に伸ばした。
どうせ暫く休みだって学園から言われた所だし……
そう思い、俺は翌日から謎を解くために世界を回ることにした。
最初は順調だったが、解き進めるうちに、やたらと遠回りをさせられている感覚があり、無駄に時間がかかっていることに違和感を覚えた。
そして、半月かけて辿り着いたのは、なんとも小さな箱だった。
箱を開けると、中にはシエルからの手紙が入っていた。
シエルからの初めての手紙に、ワクワクしたような気持ちで開封し、読み進める。
だが、読み進めるうちに、次第に自分の顔がこわばっていくのを感じた。
なぜなら、この手紙は、まるで遺言状ように感じられたからだ。
俺との時間が本当に楽しかったことや、俺に対する感謝の気持ちが長々と綴られていた。
「私がもし……死んでも、来世で会いたい……?どういう事だ……」
最後の文字を読み終えた瞬間、胸に嫌な予感が込み上げ、俺はすぐに立ち上がった。




