招かざる訪問者32
よく見ると瞳の色は、前に一瞬見た事のある碧い目に変わっていて、開いた口が塞がらなくなった。
「……え?な、何……?えっ?」
髪の長さも、目の色も急に変わった!?どうなってるの!?
「……もういい。万が一、予想外の事が起きたらと思うと手を出せずにいたが、理論通りに考えると、お前を殺せばあっちのシエルが生まれる……。そうなれば、俺らは…………1からやり直せる」
そう言うと私の胸元に手を伸ばして来た。
言葉の意味は全く理解が出来ない。
でも、その手に捕まるとヤバイのは直感で分かる。
だから私は、その手から逃れるように背を向けて走り出しそうとした。
「ひっ……」
「すぐに追いかけるから。……だから……」
そんな言葉が聞こえた次の瞬間――
「うっ……」
私の口から勢いよく血が飛び出し、全身の力が抜けたかのように自分がアスファルトの上に倒れこんだのが分かった。
「本当は、こんな事したくは無かった……」
そんな声と共に、コツコツと近付いてくる足音が聞こえる。
「出来るだけ早く済ましてやる。……ああ、でもその前に俺に関する記憶を消しておかねぇとな……」
足音がすぐ近くで止まった。
意識が朦朧としている中で見えたのは、見た事のない長い髪だった。
「……あれぇ?まだ生きてんの。早く死んで」
聞いた事のない声が、鼓膜に飛び込んでくると、次の瞬間、雷にでも打たれたような痛みが脳天を直撃して、目の前の視界がふっと消えた。
…………
……
ズキズキとした頭痛を感じてこめかみに手を当てる。
「うっ……」
そっと目を開けると、私の瞳に明るいリビングの景色が映った。
目をこすりながら、ぼんやりした頭でゆっくりと半身を起こす。
すると、窓の奥に暗い景色が見えた。
「あれ?なんで、私こんなところで……」
そう呟いた次の瞬間、さっき夢で見た記憶が一瞬で蘇って来た。
私は勢いよく起き上がって口に手を当てる。
「……えっ……」
まさか、今見た夢って……!!
あまりにも鮮明な夢に、いつもみたいに前世の抜け落ちた記憶としか思えない。
混乱する中で、私の心臓はドドドと酷い音を立て始める中、今見た記憶を整理しようとする。
『俺に関する記憶を消しておかねぇとな……』
今まで、殺される少し前の記憶だけがすっぽりと抜け落ちていて、ずっとおかしいと思っていた。
でも、平行世界を移動したディオンが私の記憶操作をしたんだとしたら、私がそこだけ覚えていなかった事に凄く合点がいく。
もし、この夢が夢でないのだとすると、前世の私を殺したは――
ディオン!!?
「はっ、早くここから逃げないと!!」
慌ててわずかな自分の荷物と、ラブを抱きかかえて立ち上がった、その時――
「シエル、まだ起きてたんだ」
という台詞が背後から聞こえた。




