招かざる訪問者27
「ま、待ってくれ!!」とヴァイスが叫んだ。
息を荒くしているヴァイスは、ガクガクと全身を震わせながら手を引っ込めていく。
俺の時と同じで、制御装置では制御しきれない少量の魔力で解除魔法を使ったんだろう。だが、少量の魔力では完全に解除は出来ていないようだ。
「わ、悪かった!」
後ずさりをして俺から距離を取ろうとするヴァイス。
「あ……あの娘は諦めるよ!絶対にあの娘には手を出さない!卒業後もだ!約束する!なんなら契約書を交わしてもいい。カミヅキにした事も全部謝る!だから……止めてくれ……」
正直、驚いた。
あのヴァイスがあまりにも潔く謝るから。
「おい、謝って許される事だと思ってんのか?」
凄むように言うと、怯えたヴァイスは背を壁に押し付けるようにして、鉄格子の外にいる看守たちに叫んだ。
「お、おい!この鎖を外せ!早く!」
その言葉に顔を見合わせ、戸惑った様子の看守たちに、俺はピシャリと言ってのける。
「知ってるよな?入塔してる奴の鎖を外すのは大罪だって」
看守たちは俺の言葉を聞いた瞬間、ごくりと喉をならしてからカチンと固まった。
俺は、そんな様子を見てからヴァイスに目を戻す。
一歩、また一歩と、まるで獲物を追い詰めるようにヴァイスに向かって足を進めていく。
そして、ヴァイスの目の前で立ち止まり、ゆっくりとしゃがみ込んだ。
冷や汗を大量に流すヴァイスの顔を、俺は怪訝な目でじっと覗き込む。
「逃げてんじゃねぇよ」
「な、なんでもする!あの娘にも、カミヅキにも謝る!だから止めてくれ!痛いのは苦手なんだ!」
なんか、調子が狂うな。そういう演技か?
「ここは元々拷問する場所だ。国民の信頼を得るために全うするんじゃねぇのかよ」
「や……でも……」
「ほら、この俺が手伝ってやる。早く手を出せ」
そう言うと、青い顔になったヴァイスは体を小さく丸め、足の間に手を隠してぶんぶんと首を振った。
その様子に面倒くせぇなと思っていると、キラキラと光るヴァイスの金色の瞳が目に入って、ふと閃いた。
「じゃあ、その鬱陶しい目からやってやる」
俺は、今度はその揺れる瞳孔に鋭い爪を向けてやった。
その次の瞬間――ヴァイスの黒目はゆっくりと上に上がっていき、白目を向いたと思うと、バタンと後ろに倒れてしまった。
「……えっ?」
よく見ると、口から泡を吹いていて、俺はその姿に驚きポカンと口を開けた。
「ヴァイス様ぁ!」
情けない姿のヴァイスに駆け寄る煌びやかな女たち。
まだ何もしてねぇのに、奴が泡を吹くほど恐怖を感じていたことに、自分の中の殺意がすーっと消えていくのが分かった。
俺は、見てはいけない姿を見たような気持ちになり、手で顔を覆って深いため息をつく。
「はぁー……」
そして、そのまま鉄格子の扉をくぐった。
慌てふためく看守たちの横を通った俺は、すっと看守たちの顔面に手をかざした。
「お前らは何も見てねぇ」
そう呟いて、その場にいる看守たち全員に記憶改ざんの魔法をかけて、俺はすぐにラグーナ島を目指した。




