招かざる訪問者26
「だろうね。今の話を聞いてそうだと思ったよ。
そういえば、ラグーナ島にひと月ほど滞在していたんだが、帰る時にもあの魔力を感じたよ。あの時に感じた魔力量は、確実にカミヅキと同等だったと思う。違和感が全く無かったからね」
……俺と同等だ?
そんなわけが無い。
ずっと追っていて、一度だってそう感じた事は無かった。
でも、ずっと違和感はあった。
微量な魔力で何度瞬間移動を使うんだ、と……
いや、そんな細かい事は後だ!
それよりラグーナ島だ!
1年前の情報なんて、今さら関係ねぇとは思う。
魔力を感じたという話なら、学園の方が数えきれないほどにある。
でも、今なんの手がかりもない中で、むやみに世界中を回るよりかは、そこに向かった方がマシかもしれない。
少なくとも、ひと月も滞在していたのなら、奴の手がかりか何かが残ってる可能性も……
「行くのかい?ラグーナ島に」
出口に向かうなり言われた言葉に首だけ振り返ると、ニコリと笑うヴァイスがいて再び殺意が沸き上がった。
シエルに無遠慮にベタベタと触れ、屈辱的な事をさせた挙句に泣かせた張本人。
許せねぇし殺してぇ程に、マジで腸が煮えくり返る。
「じゃあ、せっかくだから女性と行って来るといい。満点の星空に綺麗な海を目の前に一流のワインでも出せば、朝まで眠れないのは間違いないだろう……。
あっ、でもシエルという娘には手を出さないでくれよ。卒業と同時に僕がもらう予定だからね」
その言葉を聞いた瞬間、ついに怒りのメーターが振り切れ、俺は勢いよくヴァイスの顔面を殴り飛ばした。
衝撃で椅子が後ろに倒れ、テーブルクロスが激しくズレて、食器や食べ物が次々と床に散らばる。
コップが割れる音が響き、牢屋内に食べ物が飛び散った。
その状況に、ヴァイスの周りにいた女たちは一斉に叫び声を上げる。
頬を押さえて起き上がったヴァイスは、
「ははっ、まさかカミヅキに殴られる日がくるなんてね。人生まだまだ分からない事があるんだね」と薄笑いを浮かべた。
俺は、怒りのままにヴァイスの胸倉を掴みあげ、凄むように目を細めて、言葉を絞り出した。
「怯えて何も出来ねぇ看守たちの代わりに、俺が拷問してやろうか?俺ならたっぷりと後遺症が残るくらいに痛め付けてやれるぜ?」
そう言うと、ヴァイスの表情が固まった。
目の奥に焦りが見え始め、戸惑いながらも片方の口角を上げる。
「はは……、まさか、新な戦争でも起こす気かい?」
まだ、俺の言葉が冗談とでも思ってるんだろう。
まさか、あの時の行動を俺が許しているとでも思っているのか?そんな訳ねぇだろうが!
「そうだな。そうしたければそうすればいい」
「僕は大歓迎……へ?」
「だけどその代わり、シエルや俺に手を出した事を後悔させてやる」
俺は自分の人差し指を自分の顔の前に出し、爪が延びる魔法をかけた。
瞬く間に、人差し指の爪が長く鋭く伸びる。
その光景を目の当たりにしたヴァイスは、驚愕したように目を大きく見開き、小刻みに震え始める。
「そ、それで一体、な……何する気だい?」
「拷問?」
ゆっくり首を傾げ、目を細める。
すると、ヴァイスの手がゆっくりと上がって行き、俺に指先を向けてきた。
「え……、なっ、僕の手が勝手に……っ!!」
ヴァイスは、自分の体を動かされるのは初めてなんだろう。
先程までのヘラヘラと笑っていたヴァイスは、もうここにはいない。
「入塔は2年間だったな」
確か、今で入って1か月位だったはずだ。
って事は、ここから出れるようになるまで、後2年弱か。短いな。
「退塔するまでは、その制御装置のせいでまともに自己回復も出来なかったはずだ。命に別状がない限り、回復は一切させてもらえない。痛みに耐え抜くのが本来、この上層階に入る奴の宿命だからな……」
ヴァイスの顔がどんどん青ざめて行くのが見て取れた。
俺は、そんな様子にはお構いなしに、ヴァイスの指を取り、ヴァイスの爪下にぐっと俺の長く鋭くなった爪を差し入れた。
「ひ、ひぃ……っ!!」
すると――




