招かざる訪問者23
心臓が激しく鼓動を打ち、顔を背けようとした瞬間、ディオンの手が私の顎をぐっと持ち上げる。
私の瞳に、月と海を背景にした、艶やかなディオンの姿が映り込む。
その姿は、何故かいつもよりも大人びて見える。
ディオンの眉がわずかに寄り、切実な思いを語ろうとするような真剣な眼差しが私を射抜いていた。
そのままディオンは、静かに口を開ける。
「なぁ……」
「な……なに?」
「このまま学園を出て、俺と暮らさないか?」
そんな言葉に、私は目を丸くした。
「……え?」
ディオン目線――
シエルが学園内から消えたと分かってすぐ、リヴァーバル帝国側の塔を訪れた。
それはほかでもない、本物のヴァイスが本当に塔に入っているのかを、この目で確かめるためだ。
魔法で作らせた偽物でも入れてるんじゃないかと疑いながら、塔の螺旋階段を上がりきる。
すると鉄格子越しに、まるでどこかの王様のように優雅に朝食を楽しむ、本物のヴァイスが見えた。
白地に金の刺繍が施された服をまとい、香ばしいパンや生ハム、フルーツなどが並んだ食卓。
それは、とても罪人には似つかわしくない光景だ。
さらにヴァイスの周りには、露出の高い服をまとった容姿端麗な女たちが何人もいた。
世界一であるリヴァーバル帝国。
その国の皇帝に次ぐ地位を持つヴァイス。
待遇が通常とは違って異常だと噂には聞いていたが――実際に目にすると酷い光景だ。
拷問をするはずの部屋が、まるで高級ホテルのような仕様になっていて、ヴァイスの手足に魔法制御の鎖がついてなかったら、ここがどこだかわからなくなりそうな位だ。
まさに体裁だけを繕っているのが見て取れる。
鎖は念のための逃亡防止か?そ
れとも、誰かが来た時の見せかけか?
「どうぞ、お入りください」
看守たちが開けた鉄格子の扉をくぐると、ヴァイスは嬉しそうな声を出した。
「おっ。珍しい客が来たな」




