Fクラス-14歳-4
「でも、そこの本を読むのは難しいと思……」
「それ、どこにあるんですか!?」
あまりの話に興奮し、まだ話し終わっていないサオトメさんに食い入るように質問した。
すると――浮いていたはずの本がドサドサッと音を立てて地面に落ちた。
「え?」
落ちた本を見下ろし、何が起こったのかとサオトメさんに目を向けると……
彼の頬がリンゴのように赤く染まっていた。
その視線が私の顎より下に向けられていることに気付き、不思議な気持ちで視線を辿る。
すると、なんとサオトメさんの手をガッチリと捕まえている自分の手にぶつかった。
その瞬間、光よりも早く、握っていた手を離し、鳩のように何度も頭を下げた。
「あっ!!ごごご、ごめんなさい!つい……っ!」
「う、ううん、だ、大丈夫だよ。少し、驚いただけだから……」
サオトメさんの手の感覚が、まだこの手に残っている。
大きくて温かい、男の人の手の感覚が……
「あと、ごめんね。教えといて申し訳ないんだけど、僕はその書庫の場所までは知らないんだ。どこかに地下に続く道があって、そこで見たという噂は聞いた事があるんだけど……」
その言葉に、思いっきり肩を落としてしまう。
「……そうなんですね……」
「もし場所が分かったとしても、無断で書庫には入るのは難しいと思うよ。もし本当なら、国の重要な資料も置いている特別な書庫だろうし、警備も厳重だろうね」
重要な資料ですって!?
……なら、尚更入りたい!!
「担当の講師や管理事務員に相談してみるというのはどうかな?こういう本が読みたいって言えば、何か方法を探してくれるかもしれないし、書庫に入れなくても大図書館に入荷してもらえる可能性だってあると思うよ」
「そう、ですよね」
確かに……
瞬間移動については難しいだろうけど、平行世界についての本なら入荷してもらえる可能性はあるかもしれない。
なんで今までそれに気づかなかったんだろう。
再び本が宙に浮いた後に歩き始めると、どこからともなく聞こえてきた声に、思わず耳を澄ませた。
「サオトメ様の隣にいる女って……まさか、あの魔力ゴミ女じゃない?」
「あぁほんと。あの歳でまさかの下級クラスっていう、出来損でしょ。なんでサオトメ様の横なんて歩いてんの?」
その声に目を向けると、話した事もない上級クラス生が、上級クラス棟から私を見下ろしていた。
こういう悪口を言われるのは、時々ある。
ある程度慣れてはいるけど、やっぱり傷つかない事は難しい。
「ウザッ。自分の立場わきまえろよ」
その言葉に、思わずサオトメさんの方をチラリと見る。
彼はその声に気付いていないのか、私と目が合うと嬉しそうに微笑んだ。
サオトメさんに聞こえてなくてよかったと思ったのと同時に、やっぱりメイも一緒じゃないと分かった時点で断るべきだったかも……、と刺さる視線を感じながら後悔した。
でも……妬まれるのも無理はないよね。
サオトメさんは凄くモテるみたいだし、こんな風に並んで歩いているだけで、目障りに思われても仕方ないのかもしれない。
本当に、綺麗な横顔……
長いまつ毛。すっと通った鼻筋。
中性的な顔なのに、少し大人っぽくも見えるのは背が高いからかな?
前世も含めて恋愛なんて興味なくここまで来てたけど、この人に関しては、恋愛する人たちの気持ちが少し分かる気がする。
「そんなに見ないでくれる?照れるから」
そう言われて、初めて自分がガン見してた事に気付いて、パッと顔をそらした。
「ご、ごめんなさい!」
「いや、別にいいんだけど……」
「勝手に手を掴んだ上に、必要以上に見て……気持ち悪いですよね。本当にごめんなさい!」
「いや……」
「綺麗だったから……つい……。もう視界に入れませんのでご安心を!」
そう言いながら、彼の方に手で日差しを作るように遮ると、フッと小さな笑い声が聞こえた。
「何言ってるの。綺麗なのは君の方なのに」
そう言われて勝手に足が止まった。
……さっきから変に意識しっぱなしなのに、そんな事言われると、どんな顔をしていいのか分からない。
私は今、どんな顔をして言ってるんだろう。
困ってるのか、照れてるのか、それとも……
「わ、私……冗談は苦手です!」
かぁっと顔が熱くなる。
チラッと彼を見ると、突然、この渡り廊下にぶわっと風が吹いた。
私と彼の間に桜の花びらが紙吹雪のように流れていく。
彼のエアリーでふわふわの髪が揺れて、澄んだ瞳が少し緩んだように見えた。
「僕も。……冗談は苦手です」
サオトメさんが少し照れたような表情を浮かべているのが見えて、訳が分からなくなる。
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