招かざる訪問者18
「えっと……その……。私、前世の記憶があるって言ったでしょ?」
私の言葉に、ディオンは驚いたように一瞬動きを止めた。
しばらくして、ようやく「ああ」と返事を返す。
その事に小さな違和感を感じつつも、私は話を続けた。
「その時、実は言ってなかった事があって……」
そう話していると、ディオンが突然何かに気付いたような顔で勢いよく天井を見上げた。
どうしたんだろうと思って同じ場所を見てみたけど、そこには何も無い。
不思議な気持ちで視線をディオンに戻すと、もうそこにディオンは居なかった。
その瞬間、私は「……へ?」という間抜けな声を部屋に響かせた。
い……居ない……
はぁーー!?
なに!?
普通、こんなタイミングで居なくなる!?
無神経だと思っていたけど、ここまでだったとは……っ!!
「人が意を決してはなしている最中に……」
怒りにわなわなと震えていると、ディオンが再び目の前に現れた。
ディオンは目を吊り上げる私を見ると、気まずそうに目を伏せた。
「こんな時間に悪りぃな。でも、やっぱり聞いておきてぇと思って……」
ディオンの言葉に、頭の上にハテナマークが沢山浮かんだ。
こんな時間にって、今このタイミングで言うこと?他に言う事があるでしょ!!
「やっぱお前、俺に怒ってるんだよな」
はぁ!?
「怒ってるわよ!」
「やっぱりそうか。でもあの時、俺は、ああするしかお前の止める方法がなかったんだ。だから……」
あの時……?お前を止める?
「え……なんの話をしてるの?」
「キスした事を怒っているんじゃねぇのか?魔力覚醒の時の」
「ち、違うわよ!」
「じゃあ、あれか。あのクソ野郎を殺そうとした事か?」
「クソ野郎……?ちょっと誰の事を言ってるのか分からないんだけど……」
「は?じゃあなんなんだよ。まさかもっと前の事か?」
ディオンの理解のなさに、私は眉を寄せずにはいられない。
「本当に分からないの?私が話してる最中に、突然ディオンがどっか行くからに決まってるじゃない!」
「なんだ、それ。いつの事だよ」
何……?これ。
全然話がかみ合わない。
「ディオン……大丈夫?つい今さっきの話だよ?」
「は?お前こそ大丈夫かよ。寝相悪すぎて頭でも打ったのか?」
「ち、違うわよ!打ってないし!」
そう叫んだ時、ディオンの目が限界まで見開いて、勢いよくバッと辺りを見た。
そして酷い剣幕で私の肩を掴んで来た。
「おい、ついさっきまで俺がここ居たという話は本当か!?」
「痛っ……」
肩が痛い。
「あっ、悪りぃ」
慌てて手を放したディオンは、動揺を隠せない顔で口元を覆い、眉間に深いしわを作った。
「本当だよ。そんな嘘、つくわけないじゃない」
「……まさか……」
「ディオン、どうしたの?」
心配で覗き込むと、ディオンは何かに気付いたように勢いよく顔を上げた。
「あそこか!!お前は、この部屋から一歩も出るな!!」
「……え?」
1度だけ瞬きをすると、またディオンはこの部屋から居なくなっていた。
光り輝く壁に気付いて自分の部屋をグルリと見回す。
すると、なぜかこの部屋には頑丈なシールドが何重にも張り巡らされていた。
「……な、なんなの?」




