招かざる訪問者12
「待って!」
そう叫ぶと、2人の驚いた顔が僕に向けられた。
今、僕が出ない方がいいと思っていた。
ソフィアが、今の自分を僕に見られたくないような気がしたから。
だからこのまま僕は出ずに、明日から、何も知らなかったように接した方がいいと思った。
でも、ソフィアが塔に入れられるのなら――話は別だ。
連れて行かれそうになるソフィアをただ見ているなんて、出来るわけがない。
「えっ?サオトメ。いつから居てたんや」
「多分……最初から」
僕が聞いていたと知ったジョウガサキはすぐに頭を抱え、ソフィアは半放心状態になってしまった。
「なんやねん。じゃあ全部聞いてしまったんかい」
ジョウガサキは、僕とソフィアが仲が良いと知っていて、あえて真実が僕に知られないようにしてくれたんだろう。
「そうだね」
「あちゃー」
「でも、この件については僕にも非があるんだ」
「はぁ!?」
「だから僕も悪い」
「いやいや、そんなわけあるかい!この事でサオトメに非なんてあるわけないやろ!あんな体がおかしくなるような物を毎年食わされて……」
「それが、あるんだ」
話を遮るように言うと、2人は僕に注目した。
僕は、涙を浮かべるソフィアに、静かに目をやってから口を開いた。
「……微かにだけど、あのお菓子に何か入っている事は分かっていたんだ。だからある意味共犯なんだよ」
「んなアホな話あるかい!どうせこの子を庇ってるんだけやろ?」
「ううん。本当だよ」
最初の頃は本当に分からなかった。
でも3年目くらいには……薄々気付いていた。
「ごく少量の魔法と、何かの薬のような物が混ぜられている感じはしていた。ハッキリとした確信はなかったけど……」
体調を壊し始めたのは12歳の頃から。
それは、ちょうどソフィアが試験前日に手作りのお菓子をプレゼントしはじめてくれた年と同じだった。
だから……
「はぁ!?なんやねん!!じゃあ問いただすなり、突き返すなり、影で食わんようにするなり、なんぼでも出来たやん!なのになんで毎年律儀に食ってんねん!理解に苦しむわ!」
「それは……」
僕はハンカチで涙を拭うソフィアを見て、眉間にシワを作った。
毎年、僕のために食堂にある厨房を借りて作ってくれているソフィアの姿を想像すると、健気に見えて……
「……嬉しかったから」
その瞬間、「はぁーーーー!?」というジョウガサキの声が空にまで響いた。
結局、僕はジョウガサキをなだめて、ソフィアはひたすら号泣して謝り続けてその場は解散となった。
帰り道、ふと不思議に思った。
毎年彼女からのプレゼントを食べていたのに、どうして体調を崩さない年があったんだろうかと。
今まで確証もなかったし、深く考えてこなかったけど……
今年はジョウガサキが燃やしてしまったからだけど、12歳から貰い始めて14歳と18歳の時だけは体調を崩さなかった。
『私は、ただサオトメ様と一緒にいたくて……先に、卒業してほしくなくて……』
「あっ……そうか……」
14歳と18歳は、唯一ソフィアも進級出来た年だ。
と言う事は、あえてその年には何も入れなかった?
……普通だったら、こういう時は怒るもの……なんだろうな。
そう思うのに、僕の中からは、じわじわと喜びに似た感情がこみ上げて来るのが分かった。
口の端が上がって行く感じがして、僕は慌てて口元を覆った。
翌日、ソフィアは教室にいなかった。
恒例の終業式も終わり、講師が終わり会で挨拶をしていた。
ソフィアが来なかったのは、僕だけが試験に受かった事がショックだったのか、それとも合わせる顔がないのか……
僕は寂し気な彼女の席を見ながら、ずっと彼女の事を考えていた。
そんな時、講師の口から彼女の名前が飛び出して、勢いよく顔を上げた。
「今日欠席したタカハシ・ソフィアさんですが、先ほど管理事務局から連絡が来ました」
ん?管理事務局?どうして?
不思議に思った。




