招かざる訪問者8
そして勢いよくウエイターのトレーに置くと、「ああ~っ……せっかくのヴィンテージワインを一気飲みだなんて……」という声が背後から聞こえる。
追いかけようと一歩足を前に踏み出した瞬間、ふとある事が浮かんで、俺は動きを止めた。
それは、最近あいつが俺の事を避けている、という事だ。
さっきだって、あからさまに目を逸らしやがった。
気のせいかと思ってたが、そうではないようだ。
頻繁に逸らされる目、どこかそっけない態度の数々。
理由を聞いても、逃げるように濁される。
これを避けていると言わずして、何と言うんだ。
思い当たることなんてねぇのに……
いや、ねぇのか?本当に?
次々に浮かんでくる、自分の過去の行い。
首をしめ、屋根から突き落とし、押し倒し……
そんな過去の自分に、思わず目元を手で覆った。
「はぁー……」
そのせいか?
そのせいでシエルは……
確かに、過去の俺はシエルに咎められてもおかしくない事を何度もしてきた。
でも、このタイミングでか?
おかしくなったのは、俺の目が覚めてからだ。
もしかして……崖でやったキスか?
それとも、出発前日にシエルが想う相手を殺そうとした事か?
シエルが俺へ向ける態度を思い出すと胸が痛くなり、そっと胸元を見た。
はぁー、俺がこんな気持ちを持つなんてな。
生涯無縁の感情だと思っていたのに……
本気で馬鹿馬鹿しくて全身がかゆくなる思いだが、思い返せば呆れるほどに全部しっくりくる。
2年ぶりに学園に来た時、打たれそうになったシエルを、つい助けてしまった事。
そのあと、俺から慌てて逃げようするシエルに、なぜか必要以上にイラついた事。
用事もねぇのに妙に構いたくなったり、無意識に目で追ってしまったり……
そして、転校生と仲良くしてる姿を見ただけで、あんなにも殺意が湧いたこと。
他にも、思い返せばまだまだある。
答えを知った今となっては、なぜこの気持ちを呪いだと思い込んでいたのか不思議なほどだ。
この感情の正体を知った事で色々とスッキリとはしたが、何とも言えない不快感が残った。
それは、シエルの想う相手が……、シエルを襲ったあの野郎の可能性が高いからだ。
あの野郎は、あと数か月で塔から戻ってくる。
そしたらきっとシエルは……
仲良く見つめ合う2人の姿が脳裏に浮かび上がり、異様に腹が立った。
全てをぶち壊したくなるほどの憎悪が自分の胸の中で膨らんでいく。
その時――どこからか刺すような鋭い視線を感じ、目を見開いた。
ハッとして辺りを見回す。
でも、女生徒や講師、教頭以外に俺に向ける視線は見当たらない。
「カミヅキ様、どうかされましたか?」
教頭が不思議そうな顔を向ける。
「あ、いや……なんでもない」
俺はすぐに魔力に意識を傾けた。
すると――
この吹き抜けのパーティ会場の2階の窓の向こう側から、あの魔力を感じて、一気に目を見開いた。
いる!!!!
「少し席を外す」
女生徒たちの残念そうな声を背中で聞きながら、急いで瞬間移動を使った。
魔力を感じた窓の外に出たものの、辺りには誰の姿も見当たらない。
でも、微かに残る魔力の痕跡を感じ取ることができた。窓に手をかざすと、その感覚は一層強くなった。
「やっぱり……」
――俺と酷似した、あの魔力だ。
「……お前は、誰なんだよ」




