招かざる訪問者6
あの姿を目にすると、どうしても私を殺した人物を思い出してしまう。
戦争が終わったら告白しようと思っていたのに、なんかそれどころじゃなくなっちゃった……
疑いは深まる事も、解決する事もなく、ずっと平行線のまま。
やっぱり、ディオンが私を殺した犯人なんかじゃないと思う。
でも、そう思っても疑いが完全に晴れるわけではない。
いっそのこと、全部話してしまえば楽になれるのに……
でもそんな事をして、もし本当に犯人だったら……
「はぁー」
ため息をついて誰も居なさそうなテラスに出ると、「シエルちゃん」と呼ぶ声が聞こえた。
その声に振り返ると、派手な柄物のスーツを着たアランが映った。
「アラン……」
驚くことに、あの時死んでしまったんじゃないかとさえ思ったアランは、次の日には元気そのものだった。
『もう、ええから』と言われても、何度も感謝の気持ちを伝えた。それでも、全然足りないと思った。
そして女子寮に運ぶ時に協力してくれたアランの友人にもお礼を言い、治りきっていなかった戦場の傷を全員綺麗に治してあげたりもした。
みんな、本当にいい人だった。
アランの周りには、いつも優しい人たちがたくさんいる。
それは、きっとアランの人柄のお蔭なんだろう。
「どうしたんや。なんかさっきから浮かん顔してるやん」
「そうかな?」
「もしかして、サオトメの事か?」
実は、ローレンは未だに目を覚ましていない。
あの時、私を守るようにして壁になったローレンが鮮明に浮かび、思わず眉をひそめる。
「看護師がすぐ目ぇ覚ますって言うてたやろ。俺らはそれを信じて待つしかない。心配なんは分かるけど」
それは分かってるけど……
「前にも言ったけど、戦地での事なんやから気にせんとき。サオトメはシエルちゃんを助けたくて助けたんやろ」
私が周りをちゃんと見ていたら、あんな事にはならなかった……
そう思うと悔しくて、下唇を噛んだ。
「それに……目の前にいる大切な人を助けられんで、自分がのうのうと生き残るくらいやったら、助けて死ぬ方がマシやと思うで」
アランはテラスの手すりに背を向けて、手すりに肘を置いた。
「そんなっ……。死んだら意味ないじゃん!」
「あいつはどうか知らんけど、少なくとも俺は……」
アランの真剣な目が私を見て、ドキっとする。
次の瞬間、彼の手が私の頬にそっと触れた。
「死んでもいいから、シエルちゃんを助けたいって思った」
困ったように微笑むアランの顔に、私の目は大きく見開かれた。
「意味なんて……そんなのどうでもええねん。惚れた女を守れんで、男が立つ瀬がないやろ」
惚れた、女……?
「えっ……」
まさか……、まだ……
最近、アランは私に『好き』とか言わなくなっていた。
相変わらず女の子は周りにいるし、だからもう私へのそんな思いはついに無くなったんだと思っていた。
月明りに照らされたアランは、静かに眉をひそめる。
「シエルちゃん……俺、めっちゃシエルちゃんのことが好きやねん」
驚きのあまり、思わず口元に手を当てた。
「望みなさそうやって分かってても、この気持ちを止められへんくらい……俺……シエルちゃんの事が好きや!」
その言葉と、アランの真っすぐな目に、胸が熱くなる。
でも、私は……
「ご……」
「シエルちゃんが、あの講師が好きなんは知ってる」
その言葉にビックリして、伏せた目を上げた。
「それでも、諦められへん!ほんまに、俺やとアカンか?」
そう言われて、すぐに否定できない自分がいた。




