招かざる訪問者4
「世界線……というか、平行世界を超えることって出来るの?」
その質問を投げかけながらディオンに視線を送った。
そして、ディオンの反応を見逃さないように、瞬きを最小限にした。
すると、ディオンは私にキョトンとした顔を向ける。
「平行世界?」
「うん」
あれ?意外と普通の反応。
「さっきから変な質問ばっかだな。俺が寝てる間になんかあったのか?」
疑いの目で覗き込まれて、ドキっと心臓が跳ねる。
「そ、そんなんじゃない」
「じゃあなんだよ。訳の分からねぇ事ばっか聞いてきて。何を隠してんだ?」
そう言って、すごむように私の頬を親指と人差し指で挟んできた。
「ぴゃっ」
ディオンは、私の質問に全く動揺を見せなかった。
やっぱり……違う気がする。
こんなに、姿も声も似てはいるけど……
私は、頬を掴むディオンの手を取り、離した。
「止めてよ。本当に……気になってるだけなんだから!」
「ふぅん……」
ディオンの言葉を最後に、小さな沈黙が流れた。
その沈黙を破るように、ディオンは口を開く。
「世界線って、相対性理論で四次元空間にあるって言われるやつだっけ?」
「え……。う、うん」
「世界線は、同じ世界の中での別の時間や出来事の流れだ。
平行世界は、似た世界だが別の世界だ。どれも行き来は理論上は可能とされている。でも長年研究はされているけど、実際に成功した奴はまだいないはずだ。俺の記憶が正しければな」
す……すごいっ!詳しい!
かなりマニアックな内容のはずなのに!さすが特別講師。
もう、初めっから書庫に行かずにディオンに直接聞けばよかったと思う程の知識量だわ。
ディオンが犯人でなければ、だけど……
「そうなの。まだ実現は出来ていないらしいんだけど……」
「それを俺が出来るかって?」
その言葉に何度も頷いた。
もうこの感じ、ディオンは白に見える。
普通なら『まさかバレてるのか!?』って多少の動揺を見せるはずだし。
いや、でも実はすごく演技派なのかも……って、そんなわけないか。過去のディオンを思い返すとそういうのではない気がする。
でも、本当はそれさえも演技だったり……
疑いだすと、やっぱり止まらない。
この疑心暗鬼に終わりが見えない。
「そんなの分かんねぇよ。しようとした事ねぇんだから。
でも……何百年と研究者が研究を続けているのに、未だに実現できてねぇんだ。俺がちょっとやった位じゃ実現出来ねぇだろうな」
「そうなんだ……」
もしかして、ディオンなら実現できるのでは、と思っていた私は、その言葉にガックリと肩が落ちた。
まぁでも、これが本当だったらの話だよね。
ディオンを信じたいのに、どこかで疑いが拭いきれない自分がいる。
ああ、私はどこまでディオンを疑えば気が済むんだろうか。




